プルターク英雄伝(三)(2)

プルターク英雄伝(三)(1)」のつづきです。

(アルキビアデースは)イオーニアー*1のほとんど全部を離反させ、スパルタの将軍たちとたえず連絡をとってアテーナイ軍を悩ませた。しかしアーギス*2は妃の事で気持ちを悪くしてアルキビアデースに敵意を懐いていたが、この時の名声を聞いて忌まわしく思った。手柄の大部分がアルキビアデースの力で得られ進められたという評判になり、他のスパルタ人の間でも最も有力な最も名誉心の強い人々が・・・・勢力を増して国にいる支配者たちを動かし、イオーニアーへ人をやってアルキビアデースを殺させようとした。


そのことに気づいたアルキビアデースはまたしても脱出します。今度はペルシャ帝国にです。当時ペルシャ帝国はアテーナイにもスパルタにも味方せず、ペロポネソス戦争では中立を維持していましたが、その帝国の太守の一人、

特に残忍でギリシャ嫌いなティッサフェルネース

の許に転がり込みました。こんなことが出来るのもアルキビアデースの天性の愛嬌のなせるわざでした。この人の、

毎日一緒に遊んで生活をともにする場合の愛嬌には、どんな性格の人でも和らげられないものはなく、どんな天性の人でも捕らえられないものは

なかったからです。そして、彼に策を授けて、アテーナイとスパルタの勢力が常に均衡するように、そして両方が長期戦に消耗してペルシャにとって扱い易くなるように、いつも弱いほうを援助するように助言します。


その頃、アテーナイの民衆はアルキビアデースに死刑を宣告したことを後悔し始めました。またアルキビアデースもそろそろ故国に戻りたくなりました。しかし、彼は軽率に自分に死刑を宣告した民衆が信じられません。そこで、サモス島(エーゲ海のトルコよりの島)にいるアテーナイ海軍の有力者たちに使者を送って、自分はティッサフェルネースをアテーナイの味方につけさせることが出来る、しかし

自分は民衆には好意を感ぜず信頼を持たないけれども、貴族は別であるから

政変を起こして今の民主制を覆すように勧めました。私は、おい、あんたは元々、民衆派であって、貴族派のニーキアースと対立していたんではないかい、と、ツッコミをいれたくなります。


これが元で貴族たち、いわゆる「400人党」がアテーナイの政権を掌握したのですが、一旦、政権を掌握すると、アルキビアデースの帰国のことは忘れてしまいました。それだけでなく、彼らはいわゆる恐怖政治を行ったのでした。

アテーナイにいる民衆も恐怖の念からいやいや平静にしていた。公然と400人党に反抗した者は少なからず殺害されたからである。


今度は、民衆派がサモス島にいるアルキビアデースに救いを求めます。この動きも私には理解しがたいものです。とにかく、主義主張はどうであれ、アルキビアデースが味方になれば道が開けるとどの陣営も思っていたのでしょう。


しかし、アルキビアデースは自分が今、アテーナイに攻めていって400人党政権を転覆させる、ということを拒絶します。そんなことをすれば、そのスキにスパルタ側はアテーナイの同盟国を一斉に離反させてしまう、と言うのでした。この態度をプルタルコスは「偉大な指揮者にふさわしく」と形容しています。


幸いなことに400人党政権は1年も保たずに壊滅してしまいます。今度こそアルキビアデースは故国に帰国出来る環境がととのったのですが、ただ帰るのではつまらない、何か名声を携えて帰国したいものだと彼は考え始めます。そして今度はスパルタ海軍を撃破します。それからまっすぐアテーナイに帰ればよかったのに、ペルシャの太守ティッサフェルネースの所へ行って、自分の手柄を自慢しようとします。これがとんだ災難でした。このティッサフェルネースは、最近スパルタびいきになっていたペルシャ王に目をつけられていたので、今やアテーナイ側になったアルキビアデースを逮捕し監禁してしまいました。


こんなことでおとなしくしている彼ではありません。すぐに脱走します。脱走しただけでなく再びアテーナイ海軍に戻ってその指揮をし、キュジコス(トルコのボルフォラス海峡付近)でスパルタ海軍を撃破し、敵将ミンダロスを戦死させます。それからいくつかの戦功をたてて、アテーナイに帰国します。その時のアテーナイ市民は

 さて船から下りると迎えに来ていた人々は他の将軍たちには目もくれず、大声をあげてアルキビアデースのところへ走り寄って歓迎の挨拶をし行列を作って供をし近づいて冠をかぶせ、また傍らに寄ることが出来なかった人々は遠くから眺め、老人は若者にこの人を指さして示した。町の者の喜びには大きな涙も混ざり、現在の幸運を見て過去の数々の不幸を思い出し、あのときアルキビアデースに国事や軍隊の指揮を任せておいたならばシケリアー遠征の失敗もなくその他いろいろと予期のはずれることもなしに済んだであろう・・・・と反省したのである。


長くなりましたので、この続きは後日に致します。

*1:今のトルコの西岸

*2:スパルタ王