四つのギリシア神話。「ホメーロス讃歌」より
四つのギリシャ神話―『ホメーロス讃歌』より (岩波文庫 赤 102-6)
- 作者: 逸身喜一郎,片山英男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/11/18
- メディア: 文庫
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ホメーロスのイーリアスは全24書15,000行あまり、オデュッセイアは全24書12,000行あまり、と非常に膨大なものですが、この本に納められた4つの叙事詩はどれも600行以下と小さくまとまっていて読み易いです。
ホメーロス讃歌というのは本当は作者はホメーロスではないらしいのですが、古代からホメーロスの名で伝わっている33個の、神々への讃歌のことです。その中で一番短いものは「デーメーテール賛歌」に紹介したデーメーテールへの讃歌でたった3行です。ホメーロス讃歌のうち比較的長い4つの讃歌を納めたものです。その4つとは以下のものです。
この中で神話として重要なものは、エレウシースの秘儀の起源を語るデーメーテールへの讃歌と、トロイアの英雄アイネイアースの誕生を物語るアプローディテーへの讃歌でしょう。しかし私は個人的な思い出からアポローンへの讃歌を少しご紹介します。
14年前、東広島で仕事をしていた頃、瀬戸内海に浮かぶ大三島というオオヤマツミという神様の島のことを知って、ひそかに瀬戸内海をエーゲ海に、大三島をアポローンの島デーロスになぞらえていました。そしてエーゲ海とデーロスに関する叙事詩がないかな、と考えていたところ、この叙事詩を思い出しました。そして、何回目かの帰宅時にこの本を持参して東広島に戻り、休日に以下の箇所を読みながら呉線を旅しました。
エーゲ海の島々を詠った箇所はこんなふうです。
クレタ、アテーナイの地、アイギーナ島、船で名高いエウボイア アイガイ、エイレシアイ、海に近いペパレートス、トラキアのアトース ペーリオンの頂、トラキアのサモス、イーダーの蔭なす山の峰々 スキューロス、ポーカイア、アウトカネーの険しい峰 ひと住むによりインブロス、靄(もや)たちこめたレームノス アイオロスの子マカルの座なる神々しきレスボス 海に浮かぶ島々の中でもひときわ豊饒なキオス 岩きりたつミマス、コーリュコスの頂き、 眩しく光るクラロス、アイサゲエーの険しい峰 水の湧きでるサモス、ミュカレーの険しい頂き ミーレートス、メロポス族の町コース、険しいクニドス 風吹きすさぶカルパトス、ナクソス、パロス、岩山がちのレーナイア
島々の名前を(島じゃない町も少し入っている)羅列しているだけですが、なんとなく好きです。
そしてデーロス島についてはこんなふうに詠っています。
しかしポイボス*1よ、あなたは何にもましてデーロスを心の底より愛してる。 その地には、裳裾ひくイオニア人が、自分たちの子供や貞淑な妻を伴い 集まりつどう。彼らはあなたを記念して競技の場を設けては 拳闘に、舞踊に、歌にと、あなたがたを喜ばせる。 イオニア人がつどう場にいあわせた者は、この人々を不死なる者 老いを知らない神々に違いない、と言うほどだ。それほどまでに 彼らの全てが美しい。男たちも、帯の美しい女たちも美しく 彼らの足速い船、豊かな品々、これらを目にするならば 心楽しまずにはいられない。 しかし何にも勝る大きな感動、不滅の栄誉を担うものは、 遠矢射る神に仕えるデーロスの乙女たち。彼女たちはまず始めに アポローンを讃え、次にはレートー*2と矢を降りそそぐアルテミス*3 さらにはいにしえの男たち女たちにも記憶をはせ、讃歌を歌い、 人間たちを楽しませる。 乙女たちはさまざまな人間の声を、カスタネットの音にあわせ 描きだすことに長けていて、まるでそれらの人々の一人ひとりが 口をきいているようだ。それほどにまで美しい歌が綴られる。 どうかアポローンが、アルテミスともども恵み深くありますよう お前たち乙女一同もごきげんよう。そして私のことを 後々まで覚えていてくれるように。