「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(6)

上位エントリ:サイバネティックス
先行エントリ:「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(5)


しかし、本当はEは無限集合です。
無限集合では要素の数を測度とすることは問題があります。それに集合の要素の個数は無限ですから、変換を繰り返しても「E内の全ての要素をたどって最後に元の要素に戻る」ということはあり得ないでしょう。
例えば、集合EE=\{x|0{\le}x{\le}1,x{\in}\R\}と考えます。そしてこんな変換T_0を考えます。

  • x{\rightar}\frac{x}{2}

この変換はx=0の点以外の任意の点を不動にしません。x=0の点の測度は0ですから、測度が0でない任意の集合を不変にしないことが分かります。しかし、この変換を繰り返していっても「集合Eのあらゆる場所(の近傍)を通過する」とは言えません。例えば、最初x=0.8であるとして変換T_0を繰り返すと、

  • 0.8, 0.4, 0.2, 0.1, 0.05, 0.025・・・・・

となり、例えば点0.9の近くをこの系列は通りません。これでは

  • 時間平均=集合平均

にはなりそうにないです。この変換のどこが良くなかったかというと、この変換T_0は測度(この場合、長さ)を保存していないというところでした。E内の任意の線分を考え、その線分の中の点の全てに変換T_0をほどこすと、元の線分の1/2の長さの線分に変換されることは明らかです。つまり変換の前後で線の長さが保存されていませんので、これは保測変換ではなかったのです。


次に、[tex:0

  • x+a{\le}1ならば、x{\rightar}x+a
  • x+a>1ならば、x{\rightar}x+a-1

という変換T_1を考えます。これならば長さは保存されます。たとえば、a=0.1とします。線分[0.1,0.6]は長さ0.5ですが、変換後は[0.2,0.7]ですのでやはり長さは0.5になります。線分[0.7,1]は長さ0.3ですが変換後は2つの線分[0,0.1]、[0.8,1]になってしまいます。しかし、両方の線分の長さを合計すれば0.3になり、やはり長さは保存されていることが分かります。
このように変換T_1は保測変換ではありますが、実は「測度可遷的」にはなっていません。例えば、集合として
[0,0.05]、[0.1,0.15]、[0.2,0.25]、[0.3,0.35]、[0.4,0.45]、[0.5,0.55]、[0.6,0.65]、[0.7,0.75]、[0.8,0.85]、[0.9,0.95]、
の和集合を考えます。するとこの集合は上記の変換T_1で自分自身に変換されます。

この集合の測度は0.05×10=0.5であり、0ではありません。よって測度が0でも1でもない集合を不変にしているので「測度可遷的」ではありません。では、aがいくつであれば変換は「測度可遷的」になるのでしょうか?


いろいろ考えた結果、こう考えることにしました。
aの値として有理数を採用すると、それはm/nmnはともに整数、の形に書き表せます。すると、1/n間隔で並んだ点はこの変換で互に変換されます。よって、0から1/n毎に点をとり、それらを始点とする長さ1/2nの線分をn個作ると、これらの線分を構成する点は変換T_1によって必ずこれらの線分を構成するどれか別の点に変換されます。これらの線分からなる点集合の測度は1/2n{\times}n=1/2ですので、変換T_1は測度が0でも1でもないような点xのある集合を不変することになります。つまり、「測度可遷的」ではないことになります。


ということは、aの値として無理数を採用しなければならなかったわけです。こうするとある点を選択して、それに繰り返し変換T_1を行うと、結局は線分[0,1]の内部をびっしり埋め尽くすことがイメージ出来ます。

  • しかし変換を無限に行ってもそれは可算無限個\aleph_0の点しか生成しないので、それらの点からなる集合の測度は0になるはずです。ですから本当は「びっしり」埋め尽くすわけではありません。


「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(7)」に続きます。