「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(7)

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その先の検討に進みます。Tが「測度可遷的」な場合には

f^*(x)がある範囲の値をとるようなxの集合の測度は、ほとんど常に1か0となる。これはf^*(x)がほとんど常に一定でなければ不可能なことである。したがってf^*(x)がほとんど常にとる値は、

 (2.23)   \Bigint_0^1f(x)dx

となる。
・・・・・・
バーコフの定理では、測度0または確率0のxの値の集合を除いて、

 (2.25)   \lim_{N\rightar\inft}\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)=\Bigint_0^1f(x)dx

を得る。・・・・・・こうして、ギブスが位相平均を時間平均でおきかえたことが正当化される。


まず

f^*(x)がある範囲の値をとるようなxの集合の測度は、ほとんど常に1か0となる。

の解釈ですが、以下のように考えました。

図の2つの赤線ではさんだ領域がf^*(x)のある範囲を示しています。f^*(x)xの値によっていろいろな値をとりますから、この範囲内にあるようなxの値からなる集合を考えることが出来ます。それが図で灰色で示した領域です。つまり、範囲の下限をa、上限をbとすると

  • E_1=\{x|a{\le}f^*(x){\le}b\}

であるようなxの集合Bです。これが、変換Tが測度可遷的であれば、E_1の測度はほとんど常に0か1になる、というのです。

  • なぜ「ほとんど常に」と書いてあるのかについては私は分かりません。これは例外的にE_1の測度が0でも1でもないことがあるということを言っているのかもしれません。でもそれは何に対して「ほとんど常に」なのでしょうか?


私が理解しようとして考えた内容は以下のようなものです。
まず、f^*(x)は変換Tについて不変です。これは以下のようにして明らかになります。

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)

xに変換Tをほどこすと

  • f_N(Tx)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(TT^nx)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^{n+1}x)
  • =\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=1}^{N+1}f(T^nx)

よって

  • f_N(Tx)-f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=1}^{N+1}f(T^nx)-\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)=\frac{1}{N+1}\{f(T^{N+1}x)-f(x)\}

ここでN\rightar\inftyとすると

  • f^*(Tx)-f^*(x)=\lim_{N\rightar\infty}\frac{1}{N+1}\{f(T^{N+1}x)-f(x)\}=0

よって

  • f^*(Tx)=f^*(x)・・・・・(1)

よってf^*(x)は変換Tについて不変であると私は考えました。


ここから背理法で考察します。上記のE_1の測度が0でも1でもないものと仮定します。次に、E_1の全ての要素に変換Tを行ったTxからなる集合をE_2と表すことにします。すると式(1)からE_2の全ての要素についてもf^*(x)は上記の図に示した範囲に入るはずです。よってE_1の定義から

  • E_1{\supset}E_2・・・・・・(2)

になります。つきにE_1の補集合E_1^Cを考えます。E_1^Cの全ての要素に変換Tを行ったTxからなる集合をE_2'と表します。ところで変換Tは集合EE自身に変換するので、E_1^Cを変換した集合は、E_1を変換した集合E_2の補集合E_2^Cです。よって

  • E_2'=E_2^C

ここで式(1)を用いると、E_2^Cの全ての要素についてもf^*(x)は上記の図に示した範囲から外れるはずです。よってE_1の定義から

  • E_1^C{\supset}E_2^C

よって

  • E_1{\subset}E_2・・・・・・(3)

になります。式(2)と式(3)から

  • E_1=E_2

これは、変換Tに対して不変な、測度が0でも1でもない集合が存在することになるので「測度可遷性」に反します。よって仮定の「E_1の測度が0でも1でもない」が否定されるので、E(すなわち「f^*(x)がある範囲の値をとるようなxの集合」)の測度は0か1、ということになります。f^*(x)の範囲を、1つの値だけを含むように狭めることで、f^*(x)がある値をとるようなxの集合の測度は0か1になるということになります。これが

これはf^*(x)がほとんど常に一定でなければ不可能なことである。

の意味するところであると理解しました。


「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(8)」に続きます。