「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(5)
上位エントリ:サイバネティックス
先行エントリ:「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(4)
前回は式(3)
- ・・・・・(3)
を導きました。しかしこの式はこのままでは時系列に応用することが出来ません。もうひとひねりが必要です。式(1)〜(3)で考えていたでは、時間の経過に従っての値が決定されている、という前提に立っています。しかし時系列の特徴は、未来の値が確率的にしか分からない、というものでした。これをどう取り込めばよいのでしょうか?
ここにというパラメータを導入します。これは点集合の1点を表わし、に一様に分布しているとします。これは1つの確率事象を表わしています。そしての代わりにを考えます。を定めればはの関数として一意に決まります。これは時系列の1つの実現例を示しています。現実には、ある時点でのの値が分かったにしてもは観測者には分からないので、時点でのの値は確率的にしか分かりません。
このような時系列がエルゴード的であるというのは、以下のようなことを意味します。
- ・・・・・(4)
- とおいた場合、からへの変換が測度を保存する。
- つまり、時間の平行移動について時系列の曲線の分布の仕方が変わらない。
ところで(4)は、時刻の時にはの位置にあったものが時刻の時にはの位置に移った、と解釈することも出来ます。そこでをの関数と考えて、
と考えることも出来ます。このようなに対して関数を考えるとこの関数についてエルゴード定理が成り立ちます。
ここで、の汎関数を考えます。つまり、がからまでのの全歴史に関係して決まる数であるとします。はを固定してをとみなせば、
となりの関数と考えることになります。よってエルゴード定理を適用することが出来、式(3)に対応した
- ・・・・・(5)
が成り立ちます。ところで左辺の
は
と変形出来るので(5)は
- ・・・・・(6)
となります。式(6)の右辺は、さまざまな時刻におけるの値によって決まる量の集合平均を意味しています。このような量を統計パラメータと呼んでいます。この統計パラメータは(6)の右辺のように、ある特定の実現例(つまり、を固定したもの)の過去から現在までの時間平均として求めることが出来ます。
以前「「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(9)」で私は
「第3章 時系列、情報および通信」でウィーナーが通信の理論を展開する時に、このエルゴード理論の枠組みが奇妙な形で再利用されます。それによって通信工学と統計力学の奇妙な並行関係が現れてきます。これがウィーナーの主張したいことの一つです。
と書きましたが、ここがその「再利用」の場の一つです。もう一つの場は、ウィーナー過程から導出されたもっと具体的な時系列を扱うところ(「「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(9)」)です。
ウィーナーは書きます。
ある一つの時系列が、統計的平衡にある一つの集合(ensemble)に属することが知られ、かつその時系列の現在にいたるまでの歴史全部が与えられているとする。そうすればその時系列の属する統計的平衡にある集合の統計的パラメターのどれでも、誤差の確率0で計算することができるのである。