「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(6)

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このあとウィーナーは

一つの時系列の全過去が可付番個の量であらわされる場合に問題の焦点を絞ろう。

と書いています。「可付番個」ということは、有限個か可算無限個(\aleph_0)、ということです。ウィーナーは、かなり広い範囲の関数がこのような性質を持つと言っており、その例として、関数f(x)における可算無限個の量

  • a_n=\Bigint_{-\infty}^0e^tt^nf(t)dt(n=0,1,2,...)

を挙げています。このa_nf(t)の無限の過去(-\infty)から現在(0)までの値によって決定されます。
私には、このような量でt{\le}0の時のf(t)の値が全て決まるような関数がどれだけ広範囲なものなのか理解しておりません。時系列はその性質上極めて不規則になり易いので、そのような不規則な関数(例えばいたるところで微分不可能な関数)でも可算無限個のa_nの値によって記述出来るのかどうか疑問です。しかし、私はこのことの解答を持ち合わせていませんので次に進みます。


時刻\tau>0における時系列の値x(\tau)を予測することを考えます。前回の最後に述べた

ある一つの時系列が、統計的平衡にある一つの集合(ensemble)に属することが知られ、かつその時系列の現在にいたるまでの歴史全部が与えられているとする。そうすればその時系列の属する統計的平衡にある集合の統計的パラメターのどれでも、誤差の確率0で計算することができるのである。

から、(a_0,a_1,...,a_n,x(\tau))の同時分布を、t{\le}0の範囲のx(t)の値の全て(つまりx(t)の全過去の歴史)から求めることが可能になります。ここから(a_0,a_1,...,a_n)をある値に定めた時のx(\tau)の値の分布も求めることが出来ます。さらにn\rightar\inftyとするとこのx(\tau)の値の分布も1つの分布に収束します。その分布からx(\tau)の最良の予測値を決定することが出来ます。これが予測の理論の概要です。
私はここまでは何とか理解しました。


しかし、この理論の拡張であるらしい濾波の理論については、私は理解が出来ていません。

 さらにおもしろいのは多重時系列の場合である。その場合、その成分のあるものの過去だけを正確に知りえたときに、それらの過去以外のものを含む量の分布が、前に述べたものとひじょうによく似た方法で研究されるのである。・・・・・濾波器の一般問題はこの種類に属する。

なぜ、濾波器の問題が多重時系列の問題なのかよく理解出来ていません。その先を見ていくと

すなわち通報が雑音と混り合って、妨害を受けた通報となっており、われわれにはその妨害を受けたものの過去がわかっている。われわれはまた通報と雑音の時系列としての統計的な結合分布を知っている。・・・・この妨害を受けた通報の過去をもとにして、ある与えられた統計的意味において、真の通報を最も良く与えてくれるような、演算子を求めたいのである。

と書かれています。しかし私にはこれが予測の理論とどう関係してくるのか、よく分かりません。この次からは、ちょっと話題が変わって、ウィーナーが若い頃から研究していたブラウン運動、つまりウィーナー過程の話になります。そしてウィーナー過程を用いて導かれるある種の時系列について予測と濾波の理論を展開していきます。


今回の分を終えるにあたって書いておきたいことを書きます。

  • 濾波の理論は机上の空論ではなく、1920年代になってラジオが普及してきた時に差し迫った技術的問題になっていた雑音の除去という問題を解決するためのものだったらしいこと。
  • 予測と濾波の理論はコンピュータの原理にほとんど関係していないということ。


「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(7)」に続きます。