「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(11)

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今回は第3章の中心である

  • f(t,\gamma)=\Bigint_{-\infty}^{\infty}K(t+\tau)d\xi(\tau,\gamma)・・・・・(15)

の形の時系列における予測の理論の叙述です。しかし、私はこれを充分に理解してはおりません。そこでまず結論らしきものが書かれているところを探してみると

今もしA>0とすると、

(3.83)  f(t+A,\gamma)=\Bigint_{-t-A}^{\infty}K(t+A+\tau)d\xi(\tau,\gamma)
     =\Bigint_{-t-A}^{-t}K(t+A+\tau)d\xi(\tau,\gamma)+\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+A+\tau)d\xi(\tau,\gamma)

となる。・・・・この第1項は第2項とは全く独立である。・・・・すなわち(3.83)の右辺第1項は・・・・ガウス分布をもつことが示される。・・・・・ 最良の予測そのものは(3.83)の右辺の最後の項・・・である。

とあります。これについては、いろいろ検討しなければならないことが多いですが、どうやら現在時刻がtであり、未来の時刻t+Aにおける時系列の値f(t+A,\gamma)を予測しようとしているようです。そして(3.83)は

の形に分解していることを示しているようです。


それにしても、いろいろな疑問が沸いてきます。まず疑問に思うのはいつのまに

  • f(t+A,\gamma)=\Bigint_{-t-A}^{\infty}K(t+A+\tau)d\xi(\tau,\gamma)・・・・・(25)

になったか、ということです。(25)でA=0と置くと

  • f(t,\gamma)=\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+\tau)d\xi(\tau,\gamma)・・・・・(26)

が導かれます。これは式(15)と一致していません。つまり、定積分の範囲の下限が式(15)では-\inftyなのに式(26)では-tです。両方の式が一致するためには

  • t<0の時、K(t)=0・・・・・(27)

が成り立たなければなりません。しかし式(15)を定義した時、そのような制限をK(t)に課してはいませんでした。
K(t)に式(27)の制限を課してもかまわない理由が第3章には記述されていますが、残念ながら私は理解できません。そこにはフーリエ変換フーリエ変換は何とか分かります)やコーシー主値という言葉、ヒルベルト変換という言葉が登場します。しかたがないので式(27)の制限を認めて次に進みましょう。


次に疑問になるのは、予測値を結局どのように求めるか、ということです。これについて本の記述を見ていきますと

 最良の予測そのものは(3.83)の右辺の最後の項

(3.85)   \Bigint_{-t}^{\infty}K(t+A+\tau)d\xi(\tau,\gamma)
      =\lim_{n\rightar\infty}\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+A+\tau)d\tau\Bigint_{-\tau}^{\infty}Q_n(\tau+\sigma)f(\sigma,\gamma)d\sigma

である。ここで

(3.86)   k_A(\omega)=\frac{1}{2\pi}\Bigint_0^{\infty}K(t+A)e^{-i\omega{t}}dt

とおき、(3.85)の演算子e^{i{\omega}t}にほどこして、

(3.87)   \lim_{n\rightar}\infty\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+A+\tau)d\tau\Bigint_{-\tau}^{\infty}Q_n(\tau+\sigma)e^{i\omega\sigma}d\sigma
      =A(\omega)e^{i\omega{t}}
をみちびけば、(ほぼ(3.81)のようにして)
(3.88)   A(\omega)=\lim_{n\rightar\infty}(2\pi)^{3/2}q_n(-\omega)k_A(\omega)
      =k_A(\omega)/k(\omega)
      =\frac{1}{2\pi{k}(\omega)}\Bigint_{A}^{\infty}e^{-i\omega(t-A)}dt\Bigint_{-\infty}^{\infty}k(u)e^{iut}du
を得る。これは最良予測の演算子を周波数の形で表わしたものである。

とあります。


さて上の引用の最後の文章に登場する演算子とは何でしょうか? これは(3.85)の右辺

  • \lim_{n\rightar\infty}\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+A+\tau)d\tau\Bigint_{-\tau}^{\infty}Q_n(\tau+\sigma)f(\sigma,\gamma)d\sigma・・・・・(28)

のことを言っているようです。これは時系列f(\sigma,\gamma)を入力として、別の関数を出力するような形になっており、関数に演算をほどこすという意味で「演算子」と言っているようです。しかもこの演算子線形になっています。
「線形」というのは、式(28)を

  • F\{f(\sigma,\gamma)\}

と表わすと、

  • F\{a_1f_1(\sigma,\gamma)+a_2f_2(\sigma,\gamma)\}=a_1F\{f_1(\sigma,\gamma)\}+a_2F\{f_2(\sigma,\gamma)\}

が成り立つことを言います。


しかし式(28)に登場するQ_nとは何でしょうか? これの記述をさかのぼって探してみますと

しかもそのとき、Q_nを適当にとれば、

(3.77)   \xi(\tau,\gamma)=\lim_{n\rightar\infty}\Bigint_0^\tau{dt}\Bigint_{-t}^{\infty}Q_n(t+\sigma)f(\sigma,\gamma)d\sigma

となることが示される。ここにQ_nは、

(3.78)   f(t,\gamma)=\lim_{n\rightar\infty}\Bigint_{-t}^{\infty}K(t+\tau)d\tau\Bigint_{-\tau}^{\infty}Q_n(\tau+\sigma)f(\sigma,\gamma)d\sigma

という形式的の性質を持たなければならない。

というのが見つかります。しかしこれを読んでもQ_nが何なのか、そしてなぜ(3.77)と(3.78)が成り立つのか私には理解出来ません。




「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(12)」に続きます。