アリストテレス 山本光雄

中学生の頃だと記憶しているのですが、私が生まれ育った町の図書館には岩波のアリストテレス全集17巻がずらーっと並んでいて、それを見た私は、いつかこれらを全て読破してみたい、と思ったものでした。何か一つの体系の中に住んでみたい、という気持ちは私の生まれながら持っている性分みたいなものなのでしょう。何でそんなことを思ったかというと、その全集の題名を見ただけでアリストテレスが体系の建設者であることが推測出来たからです。現代ではアリストテレスの学説のほとんどが価値を失っていますが、それでも彼は万学の祖です。その著作範囲は驚くほど広いです。論理学、自然学(今でいう物理学か?)、生物学、天文学、心理学、形而上学倫理学政治学、経済学、弁論術、詩学、などなど。
で、中学生の頃の私の思いは今はどうなったかといいますと、それはまるで出来ていません。今住んでいる町の図書館ではアリストテレス全集なんて見かけませんし、仮にあったにしても私には大量すぎて、読む気が失せます。まあ、形而上学だけはいつか読み通してみたいですが。


この本の著者はこのアリストテレス全集の公刊に編集者として参加していました。そのような著者が書くアリストテレス哲学への入門書なのでこの本は良書のはずです。はずなんですが、実はまだ読みきれていません。ずっとずっと積読でした。今回ブログに取り上げるのをきっかけにして読み始めました。内容は難しいです。難しいですが良書のように思えます。


さて、1977年6月1日の日付を持つこの本の「まえがき」にはこう書かれています。

 十数年まえ岩波書店から「アリストテレス全集」が刊行されていたさい、新書の一冊として『アリストテレス』を書くように依頼された。私も承知して、それを同「全集」への手引きとなるようなものとして計画し、これから新しくアリストテレスを学ぼうとする読者を対象にして書こうと思った。・・・・・
 私は常々アリストテレスを理解するには、自然学、なかでも動物関係の諸著作から始めるがよいと思っていた。それはアリストテレス固有の思想が具体的な実例において示されていて、初歩者には理解され易いと思っていたからである。したがって原稿執筆もこの方針のもとにその順序で始められた。
 自然学が取り扱う対象は変化し生成消滅する世界、すなわち運動の世界であり、それも「そうであるより他の仕方ではあり得ない存在」という意味での必然の世界である。この章を書き終えた後、次に自然と同じ運動の世界にあって、しかもこれに対立するものとして「そうあるより他の仕方でもあり得る存在」という意味での自由な世界を対象に持つ政治学(「倫理学」を含む)に筆をすすめた。
 ・・・・政治学の次には、運動のない存在の世界へ移り、論理学(数学を含む)と神学(形而上学)に触れるつもりであった。
 しかし・・・・残念ながら、突然、「急性脳梗塞」という病魔に襲われ、病院生活を送る身となってしまった。・・・・岩波書店側の理解ある好意によって、ひと先ず、このできている部分の原稿を『アリストテレス―――自然学・政治学―――』と題して上梓することにした。

この「まえがき」がこの本の内容をよく表わしています。


そのあと、こんなことが書かれているのを読んで、しんみりしてしまいます。

幸い、病が癒えて、事情が許せば、その続編を最初の計画通りに書き続けたいと思っている。しかし果たして天がそれを許すか、まことに心もとない。

どうも天はそれを許してくれなかったようです。


浩瀚な『アリストテレス全集』を読むのは無理だとしても、せめてこの新書一冊200ページ強ぐらい読み終えないことには、中学生の私に申し訳ないですね。がんばって読みますわい。最後に私が中学時代に見た全17巻の『アリストテレス全集』の雰囲気をご紹介します。

  • 第1巻
    • カテゴリー論 1巻
    • 命題論 1巻
    • 分析論前書 2巻
    • 分析論後書 2巻
  • 第2巻
    • トピカ 8巻
    • 詭弁論駁論 1巻
  • 第3巻
    • 自然学 8巻
  • 第4巻
    • 天体論 4巻
    • 生成消滅論 2巻
  • 第5巻
  • 第6巻
    • 霊魂論 3巻
    • 自然学小論集
    • 気息について
  • 第7巻
    • 動物誌 第1〜7巻
  • 第8巻
    • 動物誌 第8〜10巻
    • 動物部分論 4巻
  • 第9巻
    • 動物運動論 1巻
    • 動物進行論 1巻
    • 動物発生論 5巻
  • 第10巻
    • 小品集


・・・・とまあ、こんな調子で第17巻まであります。