短寿命市場環境と短サイクルタイム(4)
「(3)」の最後で
しかしより良いのは、スループットの減少をなるべく少なくしながらWIPを減らす方策を検討することだろう。
と書いた。
ここから話をDBR(ドラム・バッファ・ロープ手法)につなぐことは出来る。すなわち、
- 工場全体のスループットはボトルネック・ステーションによって決定されるので、ボトルネック・ステーションを遊ばせないようにする。そのためには工場内のWIPをなるべくボトルネック・ステーションの前に集中させる。そして工場全体のWIPが増大しないようにラウティングの最初の工程とボトルネック工程の間のWIP数を一定に保つ。
である。この時、ラウティングの最初の工程とボトルネック工程の間のWIP数をいくつにすればよいかという問題が発生するが、TOCでは、試行錯誤して決めるべき、と述べている。これはうまい解決法で、このWIP数を数学的に求めようとすると現状の待ち行列理論では困難である。(そのような理論があるかもしれないが私は知らない。)
一方、Factory Physicsの立場からは「スループットの減少をなるべく少なくしながらWIPを減らす方策は何か?」という問いにはどう答えるだろうか? 思いつくのは、スループットとWIPの関係ではなく、1つのステーションにおけるスループットと平均待ち時間の関係を示す近似式
を用いて、ジョブの到着間隔の変動を減らすことや装置処理時間の変動を減らす、という方策を導き出すことである。さらに言えば、ジョブの到着間隔の変動は前工程の装置処理時間の変動を反映しているので、結局は工場全体において装置処理時間の変動を減らす、という方策に行き着く。
この方策の効果を簡単な待ち行列ネットワークで定量的に示すことが私にとってのひとつの課題だろう。(「処理時間変動削減の効果」で実行しました。)
さらに思いつく課題を挙げておく。
- DBRの適用においてはボトルネック・ステーションの特定が必須であるが、ボトルネック・ステーションは品種ミックスが変われば移動する。短寿命市場環境においては生産する品種が次々に変わることが予想されるが、その場合、どうやってボトルネック・ステーションを迅速に特定することが出来るか?
- 代案としてCONWIPも検討すべきではないか?
- そもそもボトルネックの概念は工場が定常的であることが前提ではないのか?
- ラウティングがループを持ち、複数回ボトルネック・ステーションを通過する場合、DBRをどのように適用すればよいか?
- DBRの方策は一種のプル方針であるが、プルの効果を数学的モデルで示すことは出来ないか? これは恐らくMVA(平均値解析法)を用いるのだろう。
- 「スループットの減少をなるべく少なくしながらサイクルタイムを短くする方策」としてはDBRと、装置処理時間の変動の削減のほかにも、中間在庫以降の工程のジョブをステーションにおいて優先して処理する、という方法が考えられる。この方法をもっと詳しく記述すること。