前書き:Quantitative System Performance

 この本はコンピュータ・システムの性能解析者のために書かれた。その目標は解析者たちに、自分の仕事において、コンピュータ・システムの生涯の全体に渡って起こるコストと性能の質問に答えることを助けるためのツールとして、待ち行列ネットワーク・モデルを適用することを教えることである。
 我々がこの主題を扱うやり方は、待ち行列ネットワーク・モデル化の理論への寄与における、そして、性能解析ツールの中にこの理論を具体化することにおける、この分野にこれらのツールを適用することにおける、大学と産業界のセッティングで待ち行列ネットワーク・モデルを用いてコンピュータ・システムの解析を教えることにおける我々の集合的経験から発生している。我々の方法の背後にある若干の重要な信念は以下のものである。

  • 待ち行列ネットワーク・モデルは万能薬ではないが、それらはコンピュータ・システムの設計と解析の広い範囲の応用における適切なツールである。
  • コンピュータ・システム解析者の唯一最重要な特質はコンピュータ・システムの徹底的な理解である。我々は読者にこれを仮定する。
  • 一方, 数学的な洗練は待ち行列ネットワーク・モデルを用いてコンピュータ・システムを賢明にかつ成功裏に解析するために必要ではない。これは待ち行列ネットワーク・モデルを評価するためのアルゴリズムはよく開発されているからである。
  • 他方、待ち行列ネットワーク・モデル化ソフトウェアの購入はコンピュータ・システム解析の成功を保証しない。これは、特定のコンピュータ・システムの待ち行列ネットワーク・モデルを定義しそのパラメータ値を決定することは技能のブレンドであり、よって訓練と経験を要求するからである。

 待ち行列ネットワーク・モデル化はコンピュータ・システムの解析のための方法論である。方法論は思考の仕方であり、思考の代替品ではない。
 我々はこの本を6つのパートに分けた。パートIでは4つのタイプの背景資料を提供する。すなわち、待ち行列ネットワーク・モデル化の一般的な議論と、モデル化スタディを行う仕方の概観と、コンピュータ・システムにおいて興味のある性能の量とそれらの間に成立しなければならない若干の関係の紹介と、待ち行列ネットワーク・モデルの入力と出力についての検討である。
 パートIIでは待ち行列ネットワーク・モデルを評価するのに用いられる、負荷強度やサービス要求のような入力から稼動率や滞在時間や待ち行列長やスループットのような出力を得るためのテクニックを示す。
 パートIIIでは特定のサブシステムの詳細モデルの必要性と、メモリとディスクI/Oとプロセッサというサブシステムのためのそのようなモデルの構築について検討する。
 パートIVでは、既存システムとシステム改善とシステム提案の待ち行列ネットワーク・モデルのパラメータ値決定について調査する。
 パートVでは、コンピュータ通信ネットワークとデータベース並行処理制御の制御メカニズムのような、従来にない若干の応用について検討する。また、待ち行列ネットワーク・モデル化のソフトウェア・パッケージの構造と使用法の例を検討する。
 パートVI、附録、ではシステム測定データから待ち行列ネットワーク・パラメータの値を得るケーススタディと、パートIIで説明した待ち行列ネットワーク評価テクニックを実装するプログラムを提供する。
 ケーススタディは本の全体に渡って現れる。それらは待ち行列ネットワーク・モデルを用いたコンピュータ・システム解析のさまざまな局面を示すために採用された。それらはさまざまなシステムの相対能力についての一般的な言明を行っていると誤解すべきではない。それらの結果は考慮中の特定の構成と負荷についてのみ意味をもっている。
 多くの重要なモデル化テクニックを「アルゴリズム」の形でまとめた。我々の意図はそれぞれのテクニックの本質的な側面を読者が完全に理解出来るのに充分な情報を提供することである。テクニックの実装については、それらの詳細が、もっと基本的な概念を覆い隠すと我々が感じた場合には意味の詳細を無視した。
 実践的なコンピュータ・システム解析者は、負荷特徴づけやシステム測定や能力データの解析やシステム・チューニングのようなテクニックに比較的熟練しており、少なくとも基本的な統計手法とシミュレーションの知識がある。これらの主題のそれぞれは既存の文献によく表現されており、この本の中でも軽く取り上げている。待ち行列ネットワーク・モデル化に関するずっと興味深い重要な研究業績も軽く取り上げている。個々の問題について我々が応用に最も適していると思う1つの方法を我々は検討している。我々が提供するよりももっと詳細に話題を追求したい読者のため、各章は適切な文献の短い検討で終わらせている。
 我々はJeffrey P. BuzenとPeter J. Denningに負うところが大きい。彼らは待ち行列ネットワーク・モデルを用いたコンピュータ・システム解析のプラグマティックな哲学の開発においてずっと有益であった。彼らの影響は特に、待ち行列ネットワーク・モデル化のための操作的枠組みを我々が利用していることに明白に現れている。それはより伝統的な統計的枠組みよりもずっと多くの洞察を運んでくる。
 Jeffrey A. BrumfieldとJeffrey P. Buzen, Domencio Ferrari, Lenny Freilich, Roger D. Stoeszの各氏は、我々の原稿をレビューすることで我々を助けてくれた。多くの匿名のレビュー者も同様である。待ち行列ネットワーク・モデルを用いたコンピュータ・システム解析における我々の仕事の一部はNational Science Foundationによって、そして、Natural Science and Engineering Research Council of Canadaによって支援されてきた。University Of WashingtonとUniversity of Torontoでの我々の同僚からの励ましに感謝する。そして我々の家族と友人の忍耐にも。