2.3. スタディの目的の理解:Quantitative System Performance

2.2. モデル化サイクル(2)」の続きです。

2.3. スタディの目的の理解


 モデル化スタディの妥当性確認フェーズが考察中のコンピュータ・システムの綿密な理解を要求することは明らかである。そのスタディの諸目的の綿密な理解が同じくらい重要であることは、たぶん、それほど明らかではない。しかしながら実際、後者の理解は待ち行列ネットワーク・モデル化のトップダウン哲学の主要要素である。完全に一般的なモデル内で表現される必要があるであろう多くのシステム特徴は特定のスタディにおいては無関係である。これらの特徴を特定することはより単純なモデルとより単純なモデル化スタディをもたらす。
 この現象の典型的な例は、まさにミニコンピュータ・アーキテクチュラル・ファミリーに新しいCPUをアナウンスしようとするコンピュータ・メーカーを巻き込んだ。このCPUの設計の間、広範囲な低レベル性能スタディが実行され、さまざまな命令ミックスについての平均実行レートのような尺度をもたらした。しかし予想される顧客は、「特定の構成において、それがサポート出来る多くのユーザに関して、そのアーキテクチュラル・ファミリーの既存CPUとそれをどのように比較するか?」というようなより高いレベルの特徴に興味があるだろう。
 メーカはこの種の特徴づけについて過去に用いてきた15件のベンチマークのセットを持っていた。各々のベンチマークは4つの作業負荷コンポーネント、つまり、エディティングとファイル作成、ファイル修正、コンパイル・リンク・実行シーケンス、を持っていた。ベンチマークでは、各々の作業負荷コンポーネントの「ユーザ」数が異なっていた。これらの「ユーザ」は、リモート・ターミナル・エミュレーション(RTE)を用いて生成された。これは、問題のシステムが、対話するユーザをシミュレートし性能データを収集する第2のシステムとつながっているような技術である。
 あいにく、RTE実験を実施する目的で新しいCPUと興味あるI/Oサブシステムのプロトタイプを構成することが不可能であった。その代わり、以下の戦略が考え出された。

  • アークテクチュラル・ファミリー内の既存のより速いCPUを興味のあるI/Oサブシステムと構成する。
  • 15件のベンチマークの各々についてこの構成上でRTE実験を実施する。
  • 新しい、より遅いCPUに置き換えた場合これらのベンチマークの各々の性能を予測するために待ち行列ネットワーク・モデルを用いる。2つのCPUの命令実行レートの比を考慮することによってモデル内のCPUサービス要求時間を確立する。

 この戦略を前提すると、明白な方法はシステムのどちらかといえば一般的なモデルを定義することであることになった。このモデルへの入力は4つの作業負荷コンポーネントの各々の負荷強度とサービス要求時間である。入力への適切な調整によってモデルは15件のベンチマークのさまざまな特徴を反映することが出来る。このモデルの妥当性が確認されたのち、各々の作業負荷コンポーネントについてCPUサービス要求時間が適切に拡大され、次に新しいシステム上でのベンチマークの能力を予測するために、やはりモデル入力への適切な調整によってこのモデルが用いられることになった。
 この方法はかなりの複雑さを隠し持っている。考慮しているシステムはページングとスワッピングの両方を使用する洗練されたメモリ管理方針を含んでいる。ページングとスワッピングのデバイスで各々のユーザが要求するサービスの量は固有のものではなく、むしろ、それは各々のベンチマーク内の作業負荷コンポーネントの特定のミックスに依存している。よって、単に負荷強度を調整するだけでは15件のベンチマークのさまざまな特徴をモデルに反映することが出来ない。代わりに、作業コンポーネントのミックスの関数としてページングとスワッピングのサービス要求時間における変動を評価するための手続きを、システムの一般的な待ち行列ネットワーク・モデルは、モデルの定義の一部として含む必要があることになった。
 そのような手続きを考え出すこと確かに実行可能であるが、それはモデル化スタディをかなり複雑にし、それは必要でないレベルの一般性を提供する。このスタディの目的が2つの構成上での15件のベンチマークの各々の相対能力を評価することに限られていたことを念頭に置けば、各々のユーザのページングとスワッピングの活動は、作業負荷コンポーネントのミックスの変化には反応するが、CPU速度の変化には反応しないと仮定することにより我々は顕著な単純化を達成できる。この仮定は、各々の作業負荷コンポーネントのページングとスワッピングのサービス要求時間を、待ち行列ネットワーク・モデル定義の一部として提供された手続きを用いて評価するのではなく、RTE実験の間に各々のベンチマークについて測定することと、モデルへの入力として提供することを可能にする。
 このコンピュータ・システム解析問題に対する2つの方法は図2.2に対比されている。単純化された方法が基盤としている仮定は普遍的に有効というわけではないが、その結果起こるどんな不正確さも厳密に副次的なものであり、実際、作業負荷コンポーネントのミックスの関数としてページングとスワッピングのサービス要求時間における変動を評価しようとした時に必然的に発生する不正確さよりもたぶん小さい。(セクション2.5でこのスタディに戻り、さらに詳細をつけ加えることになる。)

  • 図2.2 CPU置き換えのモデル化の2つの方法


2.4. 作業負荷の特徴づけ(1)」に続きます。