3.3. リトルの法則(1):Quantitative System Performance

3.2. 基本的な量」の続きです。

3.3. リトルの法則


 実際には稼動率の法則はリトルの法則の特別な場合であり、ここではより一般的な条件でこれを導出する。図3.2は時間の経過につれてシステムで発生した到着と完了の総数のグラフである。高いほうの階段関数の個々のステップはその瞬間での到着の発生を意味し、低いほうの個々のステップは完了を示す。任意の時点で、到着関数と完了関数の間の垂直距離はシステム内に存在している要求の数を表している。任意の時間間隔に渡って、到着関数と完了関数の間の面積は、要求秒(あるいは、要求分、など)の単位で測った、その間隔でのシステム内の累積時間を表す。例えば、2秒の間隔内にシステム内に3個の要求があるならば、6要求秒が累積されている。この領域は図3.2に長さT=4分の観察時間について影をつけている。システム内の累積時間を一時的にWで示すことにする。

  • 図3.2 システムの到着と完了

以下を定義する。

  • N、システム内の平均要求数N\equiv\frac{W}{T}
    • もし、4分の観測時間の間に総計2要求分の滞在時間が累積されていたら、システム内の平均要求数は2/4=0.5である。
  • R、1要求あたりの平均システム滞在時間R\equiv\frac{W}{C}
    • 観測期間の間に総計2要求分の滞在時間が累積されていて、その間に8個の要求が完了していたならば、各々の完了した要求の平均寄与(非形式的には、1要求あたりの平均システム滞在時間)は2/8=0.25分である。

代数的に、\frac{W}{T}=\frac{C}{T}\frac{W}{C}。しかし\frac{W}{T}\equiv{N}、かつ\frac{C}{T}\equiv{X}、かつ\frac{W}{C}\equiv{R}
よって

  • リトルの法則
    • N=XR

つまり、システム内の平均要求数は、そのシステムのスループットと1要求がそのシステムで費やす平均時間の積に等しい。
 我々のリトルの法則の導出の中で微妙だが重要なポイントは、量Rは平均滞在時間すなわち応答時間(到着から出発までの期待時間)についての我々の直感的な考えと必ずしも一致しないということである。この不一致は終端効果のせいである。つまり、観測期間の開始直前または終了直後に存在する要求を計上する方法を知ることは難しい。さしあたりは、もし観測期間中にシステムを通過する要求の数が、開始時あるいは終了時に存在する数よりかなり大きければ、Rは我々の直感に近くなり、もし観測期間が、システムが空である瞬間に始まって終わるならば、この2つは厳密に一致する。(終端効果はほかの場所でも発生する。たとえば、Rに影響を与える考察と類似の考察が我々の以前のS、1要求あたりの平均サービス要求時間についての定義についても影響を与える。)
 リトルの法則は3つの理由で重要である。第1に、それは非常に広く適用出来(非常に弱い仮定しか要求しない)、測定データの整合性をチェックする際、我々にとって価値があるからである。第2に、コンピュータ・システムを研究する際、我々はしばしば、リトルの法則に関係する量のうち2つを(たとえば、システム内の平均要求数とそのシステムのスループットを)知っていて、3番目を(この場合、平均システム滞在時間)を知りたいという場面に出くわすからである。第3に、リトルの法則は、パートIIで紹介する、待ち行列ネットワーク・モデルを評価するためのアルゴリズムの中核をなすからである。
 コンピュータ・システムが与えられたとして、リトルの法則は多くの異なるレベルで、すなわち、単一リソースに、サブシステムに、システム全体に、適用可能である。成功のカギは整合性である。すなわち、個数とスループットと滞在時間の定義は互いに整合していなければならない。図3.3では、そこに4つの長方形で示したように、4つの異なるレベルで階層的タイムシェアリング・システムにリトルの法則を適用することによって、このことを示す。

  • 図3.3 4レベル適用したリトルの法則


3.3. リトルの法則(2)」に続きます。