5.1.導入:Quantitative System Performance

4.7. 演習」の続きです。(目次はこちら

5.1.導入


 我々はこの本のこのパートを待ち行列ネットワーク・モデルを用いたコンピュータ・システム解析のための最も単純で役に立つ方法、つまり境界解析、に充てた章で始める。非常にわずかな計算でシステムのスループット応答時間の上限と下限をシステム負荷強度(客の数、あるいは到着レート)の関数として決定することが可能である。2つのクラスの性能境界、すなわち漸近的境界バランスのとれたシステムの境界、を計算するテクニックを記述する。漸近的境界は、バランスのとれたシステムの境界よりも広い範囲のシステムについて成立する。バランスのとれたシステムの境界の、それを埋め合わせる利点は、それらは漸近的境界よりきつく、よってより精密な情報を提供することである。
 境界テクニックを興味深くまた有用にしているいくつかの特徴がある。

  • これらのテクニックの開発はコンピュータ・システムの性能に影響を与える主要要因への価値のある洞察を提供する。
  • 境界は迅速に、手計算でさて、計算出来る。よって、境界解析はスタディの早期に不適切な選択肢を除去するために用いることが出来る初期除去モデル化テクニックとして適切である。
  • 多くの場合、多くの選択肢が、それら全体について有用な情報を提供する単一の境界解析によって、一緒に扱うことが出来る。


ここで検討する境界テクニックと対照的に、後続の諸章で提示されるより洗練された解析テクニックはずっと多い計算を必要とする。そしてその程度は解析を手で実行するが非現実的なくらいである。
 境界テクニックはシステム規模スタディで最も有用になる。そのようなスタディにはむしろ長期計画が含まれ、よってしばしばシステム特徴の予備的評価に基づいている。システムの知識におけるそのような不正確さがある中では、迅速な境界スタディは性能尺度の特定の見積り値を導くより詳細な解析より適切であろう。システム規模決定スタディは通常大量の候補構成の考慮を含む。しばしば、システムの他の部分がある単一のリソース(CPUのような)のパワーにマッチするように構成されるので、その単一のリソースが支配的な関心事である。境界解析は、同じクリティカルなリソースを持つが他のサービスセンターにおける要求のパターンが異なるような候補構成の群を「「ひとつの選択肢」」として考えることを許す。
 境界テクニックは既存システムへの代替アップグレードの可能な性能アップを見積るためにも使用出来る。セクション5.3で我々は、言明された性能目標を満足することが可能であるはずならばボトルネック・センターで要求される処理要求時間削減の程度についての洞察を、境界のグラフがどのように提供するかについて示す。(センターでの処理要求時間は、若干の作業をそのセンターからそらすことによって、あるいはセンターでより速いデバイスに置き換えることによってのいずれかで削減することが出来る。)
 境界解析についての我々の検討は単一クラスの場合に制限されている。複数クラスへの一般化は存在するが、それは広くは用いられていない。この理由のひとつは、境界テクニックはボトルネック・センターのキャパシティ・スタディについて最も役立ち、単一クラス・モデルはそれに充分であることである。さらに、実際における境界テクニックの主要な魅力はその単純さであり、仮に複数クラスがモデルに含まれるとしたならば、この単純さは失われてしまうからである。
 この章の残りで考察するモデルは以下のパラメータによって記述出来る。

    • K、サービスセターの数
    • D_{max}、任意の単一センターでの最も大きな処理要求時間
    • D、センターでの処理要求時間の合計
    • 客クラスのタイプバッチあるいは端末あるいはトランザクション
    • Z、平均考慮時間(クラスが端末タイプの場合)

トランザクション・タイプを持つモデルについて、スループット境界は、そのシステムによって処理出来る最大客到着レートを示す一方で、応答時間境界は、これらの客が経験する最大と最小の応答時間をシステム到着レートの関数として示す。バッチまたは端末のタイプの作業負荷を持つモデルについて、境界は可能な最大と最小のシステム・スループット応答時間をシステム内の客の数の関数として示す。スループットの上限と応答時間の下限を楽観的境界と呼び(それらは可能な最良の性能を示しているから)、スループットの下限と応答時間の上限を悲観的境界と呼ぶ(それらは可能な最悪の性能を示しているから)。以下の数セクションでシステムのスループット応答時間の境界のみを扱う一方で、これらをサービスセンターのスループットや稼動率のような他の性能尺度における境界に変形するために第3章基本法則を用いることが出来る。

5.2.漸近的境界」に続きます。