変容の象徴(上)

フロイトと並んで有名な深層心理学カール・グスタフ・ユングの本です。この本は何回か一応読み通していますが、結局、何が書かれていたのか分からずじまいです。細部には思わせぶりな意匠がいっぱいあるのですが、それがどのような全体を構成しているのか全然分かりません。
 いや、一応構造はあるにはあるのです。これはあるアメリカの女性(仮名でフランク・ミラーと呼ばれている)、1898年に20歳だった女性の自発的な空想の記述に対して、その女性とは会ったこともないユングが彼女の空想の背後にある深層のさまざまな神話的モチーフを解説したという体裁をとっています。しかし私の読んだ感想では、それは建前だけのことであって本当は単にミラーの空想をダシにして自分の世界各地の神話伝説の知識に関する連想を並べている、という風に、正直なところ、見えてしまいます。
 かと言って、この本を私がつまらないと思っているわけではありません。ずっと気になり続けている本です。いつかきちんと読みこなしてみたい、と思うこともあります。一方で、そんな労力を費やしても無駄な結果に終わりそうな予感もします。一部を拾い読みしても、どっと精神が疲れて猛烈に眠くなります。あるいは頭に焼きつくような奇妙な記述に出会う時もあります。心理学の本というよりは、オカルトのネタ本として私は利用していました。


この本を書いた時ユングは37歳。これを書いたことによりフロイトから破門されることになったのでした。

私はその出版が私にフロイトとの友情を犠牲にさせるだろうとあらかじめ承知していた。というのは、私はその中で近親相姦についての私自身の考えや、リビドーの概念の決定的な変容、その他私とフロイトとで異なっているいろいろな考えを書き留めることを計画していたから。・・・・・
 ・・・・・私は自分の考えを人に知らせずにおくべきか、それとも大切な友情の喪失を賭けるべきか。ついに、私は執筆することに決心し、そしてそれは実際に私にフロイトの友情を失わせたのであった。
 フロイトとの訣別のあと、私の友人や知人は皆、いつのまにか立ち去っていった。私の著作は無用の物だと宣言された。つまり、私は神秘論者であるとして、それでことが落着したのである。・・・・・


ユング自伝 1」の「Ⅴ ジクムント・フロイト」より

このことでユングは自ら言うところの「中年期の危機」を迎えます。