8.5.2.ハイブリッド・モデル化(2):Quantitative System Performance

8.5.2.ハイブリッド・モデル化(1)」の続きです。(目次はこちら

 本質的に、この手法は前のサブセクションの手法と同一であり、シミュレーションが大域バランスの代わりをしている。我々がそれを提案する同期も同じである。つまり、我々は利用したい強力なモデル解法(シミュレーション)を持っているが、その手法は一般の使用には計算量的に効率が悪すぎるからである。
 解法としてのシミュレーションの効率の悪さはその手法の統計的な性質の結果である。シミュレーションは本質的に確率的動作シーケンスの観察に依存しているので、(いかなる少数のシーケンスも代表的ではないので)我々が結果に確信を持つことが出来る前には多くのそのようなシーケンスを観察しなければならない。よって、シミュレーションは本質的に高価である。この問題は、シミュレートされるイベントが非常に異なるレートで発生するような場合に悪化する。例えば、そこではI/Oサブシステムが詳細に表現されていて、我々がそこからシステム・スループットを得たいと思っているようなモデルを考えてみよう。個々のI/O要求について我々は、I/Oパス選択やシリンダ・シークや回転レイテンシーやパス再接続やデータ転送時間を個々にシミュレートするとしよう。さらに、データ伝送エラーは(エラーを挿入出来るように)個々の転送バイトをシミュレートすることで表現されるとしよう。この場合、我々はレートを比較的遅いもの(システム内のジョブ完了)から比較的速いもの(バイト転送)まで変化して発生するイベントを持つ。上述のように、システム・スループットの結果について統計的な信頼を得るためには多くのジョブ完了を観察しなければならない(例えば1000回)。個々のジョブが平均で100回のI/O操作を実行するとしよう。これは100,000回のI/O操作をシミュレートしなければならないことを意味する。さて、個々のI/O操作は4,000バイトの情報を転送するものとしよう。これは400,000,000バイトの転送のシミュレーションを意味する。明らかにそのようなシミュレーションは莫大なマシン・リソースを要求する。
 さまざまなイベントが起こるレートに大きな時間尺度の差がある上記のような状況で最良の利点を得るためにハイブリッド・モデル化を用いることが出来る。通常、最も頻繁に発生しているイベントを含むサブシステムは解析的にモデル化され、その解から得られる負荷依存スループットはFESCを作るために用いられる。FESCはサブシステムに置き換わり、その結果出来たモデルがシミュレートされる。よってサブシステム内の活動はFESCからの客の到着と出発によって表現され、(そこが客がそこからやってくる場所なので)それはモデルの残りのイベントとして同じレートで起こらなければならない。よって、このモデルは(比較的)効率よくシミュレート出来る。
 さまざまな長期のスケジューリング方針(メモリ・アドミッション・ポリシー)の性能を評価するためにモデルを用いることを考えてみよう。モデルは、重要なハードウェア・リソース(CPU、ディスクなど)とメモリ・キューを表すサービスセンターと3つの客クラスからなるとしよう。1つのクラスはCPU律速ジョブを表し、もう1つはI/O律速ジョブをもう1つはバランスのとれたジョブを表す。評価されるスケジューリング方針はシステム・スループットを最大化しようとして、3つのクラスの1つから待ちジョブを選ぶために現在のメモリ滞在ジョブミックスについての情報を用いる。
 メモリ・キューと考察している複雑なメモリ・アドミッション・ポリシーのために、このモデルは分離可能ではなく、よって解析的に解くことが出来ない(おそらく前のセクションの手法をうまく適用することは出来るだろうが)。純粋なシミュエーションの方法は、長期スケジューリング決定がなされなければならないレートと中核サブシステム内部で起こるイベントのレートの間の時間尺度の違いのために、実行不可能でないとしても非常に高価である。よって、ハイブリッド方法が推奨される。中核サブシステム(CPUとI/Oサブシステム)モデルが分離され、分離可能モデルをもたらす。このモデルは、3つのクラスの客の実現可能な各々のミックスについて解析的に解かれる。最後に、先に解かれた中核サブシステム・モデルの解から作られたFESCのレートに従って選ばれたジョブ完了間の時間を使って、メモリ・アドミッション・ポリシーのシミュレーションが行われる。要するに我々はシミュレーションを用いて、単にメモリ・キューと、コンピュータ・システムの残りを表すFESCからなるモデルを、FESCがそれに置き換わったサブシステムの解析解によって得られたFESCのパラメータ(処理レート)を使って解析する。
 この問題に適用したこの手法での実際の実験では、ハイブリッド手法とシミュレーションだけの手法の間の最大相対相違割合は7%である一方で、シミュレーションだけのモデルは実行するのに56倍も長くかかった。精度と効率のこの組合せを考えると、ハイブリッド手法は最適の方法である。

8.6.まとめ」に続きます。