逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(2)

逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(1) 」の続きです。

 1968年 Marshall*1GI/G/1待ち行列の若干のサブクラスについて平均待ち時間に関する若干の不等式を証明した。この論文で用いるその結果は以下のものである。
 定義。確率変数Xの分布関数が増加故障レートを持つならば、つまり任意のdtについて、F(t)\neq{1}である全てのt>0について(F(t+dt)-F(t))/(1-F(t))が増加関数であるならば、確率変数XはIFR性を持つと言われる。

 補題\rho<1でIFR到着過程を持つ単一サーバ待ち行列について

  • (2.5)  L_q{\ge}\frac{C_a^2+\rho^2C_s^2}{2(1-\rho)}-\frac{C_a^2+\rho}{2}{\equiv}\underline{L}_q

 この補題を用いて、我々はこのサブクラスについて我々の近似公式がよい結果を与えることを証明する。

  • \tilde{L}_q-\underline{L}_q=\frac{C_a^2+C_s^2}{2}\frac{\rho^2}{1-\rho}-\frac{C_a^2+\rho^2C_s^2}{2(1-\rho)}+\frac{C_a^2+\rho}{2}
    • =\frac{-C_a^2(1-\rho^2)+C_a^2+\rho-{\rho}C_a^2-\rho^2}{2(1-\rho)}
    • =\frac{\rho}{2}(1-C_a^2){\le}\frac{1}{2}(1-C_a^2)  (∵C_a{\le}1

他方

  • \bar{L}_q-\tilde{L}_q=\frac{C_a^2+\rho^2C_s^2}{2(1-\rho)}-\frac{C_a^2+C_s^2}{2}\frac{\rho^2}{1-\rho}=\frac{C_a^2(1-\rho^2)}{2(1-\rho)}=\frac{1+\rho}{2}C_a^2{\le}C_a^2

ただし\bar{L}_qは全てのGI/G/1待ち行列についてのL_qの上限であり、Kingman*2によって証明された。これらの関係は、\tilde{L}_qは真の値と最大でも1しか違わなくて、実際にはこの差は多くのそのようなシステムについて1/2より少ないことを示している。到着過程がIFR特性を持っているという仮定は多くの場合、理にかなっているので、我々の公式(2.4)は一般性を持つと言うことが出来る。
 複数のサーバの待ち行列について、一般に平均待ち行列長を評価する解析的結果が存在しない。まず、我々はM/M/s待ち行列システムについて平均待ち行列長を基本待ち行列理論を用いて計算する。つまり、

  • (2.6)  L_q=L_q(\rho)=\frac{s^s\rho^{s+1}}{s!(1-\rho)^2}p_0

である。ただしp_0=\left\{\Bigsum_{n=0}^{s-1}\frac{(s\rho)^n}{n!}+\frac{(s\rho)^s}{s!(1-\rho)}\right\}^{-1}\rho=\lambda/s\muである。M/M/1待ち行列の場合の類推で、我々はL_qを、sの関数である、ある定数\beta=\beta(s)についての\rho^\beta/(1-\rho)で近似する。あるsについての\betaを決定するために我々はL_q=L_q(\rho)\rho=0.80(0.01)0.99について計算し、各々の\rhoについて\beta\log(L_q(\rho)(1-\rho))/\log(\rho)とセットする。次に各々の\betaについて

  • A(\beta)^2=\Bigsum_{\rho=0.80(0.01)0.99}\left(L_q(\rho)-\frac{\rho^\beta}{1-\rho}\right)^2

を計算し、A(\beta)^2を最小にするような\beta\hat{\beta}とする。つまり、\hat{\beta}はある意味最小2乗推定量である。次のセクションで、これらの手続きの若干の数値計算結果を示す。これらの結果から、我々は\beta(s)の近似式としてsqrt{2(s+1)}を得ることが出来る。さて、我々はM/M/s待ち行列についての平均待ち行列長の以下の近似公式を確立する。

  • (2.7)  L_q\approx\frac{\rho^{sqrt{2(s+1)}}}{1-\rho}

平均待ち行列長についての正確な公式を考慮するならば、この単純さは特筆に価する。この単純な公式は数表なしで容易に計算することが出来る。公式を多くのs\rhoの値についてテストすることにより、近似値と真の値の間の差が非常に小さいので、我々は我々の試みが成功したと結論した。
 M/G/s待ち行列について、Lee とLongton*3が平均待ち時間W_{M/G/s}についての以下の近似公式を導出している。

  • (2.8)  W_{M/G/s}\approx\frac{1+C_s^2}{2}W_{M/M/s}

ただしW_{M/M/s}M/M/s待ち行列についての平均待ち時間である。2つの公式(2.7)と(2.8)を組み合わせることにより、単一サーバの場合に類似したM/G/s待ち行列についての平均待ち行列長についての以下の公式を得る。

  • (2.9)  L_q\approx\frac{1+C_s^2}{2}\frac{\rho^{sqrt{2(s+1)}}}{1-\rho}

この公式の正当性は次のセクションにて、M/D/s待ち行列について\rho=0.9の場合で数値的に検査される。
 最後に、単一サーバ待ち行列の場合の類推から、含まれる分布の変動係数が全て1以下であるようなGI/G/s待ち行列について以下の近似式を推測する。

  • (2.10)  L_q\approx\frac{C_a^2+C_s^2}{2}\frac{\rho^{sqrt{2(s+1)}}}{1-\rho}

特にs=1について、(2.10)は(2.4)に一致する。今のところ、この公式の正しさは検査されていないが、D/M/sM/D/sE_2/E_2/sのような若干の特別な待ち行列について検査した。しかしこれらの比較の結果はよい結果を示し、それは次のセクションで与えられる。

逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(3)」に続きます。

*1:Marshall, K. T. (1968). Some inequalities in queuing, Operat. Res., 16, 651-665.

*2:Kingman, J.F.C. (1962). On queue in heavy traffic, J. R. Statist. Soc., B 24, 383-392.

*3:Lee, A. M. and Longton, P. . (1959). Queueing process associated with airline passenger check-in, Operat. Res. Quart., 10, 56-71.