逆瀬川近似式の改良

逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(2)」で逆瀬川氏の提案するGI/G/sの平均待ち行列長の近似式

  • L_q\approx\frac{C_a^2+C_s^2}{2}\frac{\rho^{\sqrt{2(s+1)}}}{1-\rho}・・・・・(1)

を紹介しましたが、これはもともとは
逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(1) 」にありますようにPage*1による近似式

  • W{\approx}C_a^2C_s^2W_{M/M}+C_a^2(1-C_s^2)W_{M/D}+C_s^2(1-C_a^2)W_{D/M}・・・・・(2)

  • W_{M/D}=\frac{1}{2}W_{M/M}・・・・・(3)

  • W_{D/M}=W_{M/D}-0.3/\mu・・・・・(4)

を代入し、さらに式(4)の0.3/\muに由来する項を小さい値であるということで無視することから導かれていました。
私は、以前「D/M/1における待ち時間の近似式」で

という式を提案しました。そこで式(4)の代わりにこの式を代入することによってもう少し近似精度が上るのではないか、と考えました。というのは式(4)では最終的に0.3/\muの項を無視して

  • W_{D/M}=W_{M/D}・・・・・(6)

としてしまいますが、式(6)に比べれば、式(5)のほうが精度がよいからです。式(4)の代わりに式(5)を用いて、この論文と同じ導出をしていくと、最終的に

  • L_q\approx\frac{C_a^2+{\rho}C_s^2+(1-\rho)C_a^2C_s^2}{2}\frac{\rho^{\sqrt{2(s+1)}}}{1-\rho}・・・・・(7)

という式が得られます。この式の精度を調べてみましょう。
幸い「逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(3)」にはいろいろな待ち行列数値計算例が載っていますので、これと比較することにします。
まず表3.1 GE_j/E_k/1待ち行列の平均待ち行列長 を用いて比較してみます。各欄の4つの数字は上から順に、真の値、式(1)による近似値、式(7)(今回提案の式)による近似値(表で色を着けています)、式(2)による近似値です。


この表から、それぞれの近似方法の結果と真の値との差の2乗平均の平方根を調べてみますと、

  • 逆瀬川近似式(式(1)):0.141
  • 今回提案の近似式(式(7)):0.064
  • Pageの近似式(式(2)):0.068

とPageの近似式よりもよい精度を示しました。Pageの近似式はそのままでは計算出来ませんので、式(7)の有用性は高いと思います。


次に表3.4 \rho=0.9の時のGI/G/s待ち行列\tilde{L}_qL_q についても比較してみます。

  • 表3.4' \rho=0.9の時のGI/G/s待ち行列\tilde{L}_qL_qと今回提案の近似式による値


上の表でM/D/sD/M/sE_2/E_2/sの下に示す値が真の値です。\tilde{L}_qの下にある値が逆瀬川近似式による値です。(逆瀬川近似式ではM/D/sD/M/sE_2/E_2/sで近似値が共通になります。) 「近似2」の下に示す値が今回提案の近似式による値です。一見してD/M/sE_2/E_2/sの場合に、逆瀬川近似式より精度が改善されたことが分かります。M/D/sの場合は両者の近似値は一致します。これも誤差を2乗平均して平均誤差を計算すると

  • 逆瀬川近似式(式(1)):0.34
  • 今回提案の近似式(式(7)):0.15

逆瀬川近似式よりもよい精度を示しました。それでもsの値が大きくなるとD/M/sE_2/E_2/sの場合に誤差が大きくなります。このあたりは今後の課題です。
さて、式(7)にリトルの法則を適用することによって、GI/G/sの平均待ち時間の近似式を得ることが出来ます。平均待ち時間をCT_qとします。サーバ(=装置)の平均処理時間をt_eとするとスループット

  • \frac{s\rho}{t_e}

なので、リトルの法則により

  • L_q=CT_q\frac{s\rho}{t_e}・・・・・(8)

式(8)と式(7)から

  • CT_q\approx\frac{C_a^2+{\rho}C_s^2+(1-\rho)C_a^2C_s^2}{2s}\frac{\rho^{\sqrt{2(s+1)}-1}}{1-\rho}t_e・・・・・(9)

となります。

*1:Page, E. (1972). Queueing Theory in OR, Butterworths.