M/M/mにおける待ち確率Πの近似

\Piは到着客の待ち確率(delay probability)と呼ばれる量で、客(ジョブ)が到着した時に装置が空いておらず、待たなければならなくなる確率を意味します。装置がm台ある待ち行列では、ジョブが到着する時に待ち行列システムにジョブがk 個存在する確率をP(k)で表すと、

  • \Pi=\Bigsum_{k=m}^{\infty}P(k)・・・・・(1)

で表すことになります。ところで、M/G/m待ち行列の場合、つまり、到着分布はポアソン分布の場合、PASTAを用いることが出来て、上記のジョブが到着する時の確率は、単純に時間平均での確率に読み替えることが出来ます。つまり、ジョブが到着する時に待ち行列システムにジョブがk個存在する確率P(k)は、待ち行列システムに ジョブがk個存在する(時間平均での)確率p(k)に等しくなります。よって

  • \Pi=\Bigsum_{k=m}^{\infty}p(k)・・・・・(2)

になります。
さらにM/M/m待ち行列の場合は、「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(2)」で示したようにp(k)の計算式が判明していますので、それを(2)に代入して\Pi を求めることが出来ます。ところがp(k)の式は少々計算が面倒でした。「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(2)」で示したようにp(k)

  • 0{\le}k{\le}m の時
    • p(k)=\frac{(mu)^k}{k!}p_0・・・・・(3)
  • k{\ge}mの時
    • p(k)=\frac{m^mu^k}{m!}p_0・・・・・(4)

ただし

    • uは装置利用率
    • p_0=\frac{1}{\Bigsum_{k=0}^{m-1}\frac{(mu)^k}{k!}+\frac{(mu)^m} {m!(1-u)}}・・・・・(5)

でしたが、(5)の計算が少々面倒です。特にExcelを使って実務で計算する際には面倒です。そこで、M/M/mの時の \Piを簡単に計算出来る方法はないか、と考えてみました。それについてご紹介します。
逆瀬川の近似式の精度」で紹介しました逆瀬川の近似式を用います。この近似式は

  • CT_q\approx\frac{u^{sqrt{2(m+1)}-1}} {m(1-u)}t_e・・・・・(6)

ただし

    • CT_q:ジョブの平均待ち時間
    • t_e:装置の平均処理時間

というものでした。一方、CT_qの厳密な式は「待ち行列理論の私的総論」で紹介しましたように

  • CT_q=\frac{m^{m-1}u^m}{m! (1-u)^2}p_0t_e・・・・・(7)

でした。この(6)(7)から

  • \frac{u^{sqrt{2(m+1)}-1}}{m(1-u)}t_e\approx\frac{m^{m-1}u^m}{m!(1-u)^2}p_0t_e
  • \frac{u^{sqrt{2(m+1)}-1}}{m}\approx\frac{m^{m-1}u^m}{m!(1-u)}p_0
  • u^{sqrt{2(m+1)}-1}\approx\frac{(mu)^m}{m!(1-u)}p_0・・・・・(8)

また、(2)と(4)から

  • \Pi=\Bigsum_{k=m}^{\infty}p(k)=\Bigsum_{k=m}^{\infty}\frac{m^mu^k}{m!}p_0
    • =\frac{m^m}{m!}p_0\Bigsum_{k=m}^{\infty}u^k=\frac{m^m}{m!}p_0\frac{u^m}{1-u}
    • =\frac{(mu)^m}{m!(1-u)}p_0

よって

  • \Pi=\frac{(mu)^m}{m!(1-u)}p_0・・・・・(9)

(8)と(9)から

  • \Pi{\approx}u^{\sqrt{2(m+1)}-1}・・・・・(10)

これが私の提案する\Piの近似式です。