15.3.ローカル・エリア・ネットワーク:Quantitative System Performance

15.2.コンピュータ通信ネットワーク(2)」の続きです。(目次はこちら

15.3. ローカル・エリア・ネットワーク


 SNAのようなコンピュータ通信ネットワークは中程度の帯域幅で長距離に渡ってうまく動作するように設計されている。他方、ローカル・エリア・ネットワークは、中距離(例えば、1km)に渡って高帯域幅(10MHzかそれ以上)での使用に最適化されている。イーサネットはおそらく最も広く知られており使用されているローカル・エリア・ネットワークである。このセクションで我々はイーサネットの表現をローカルに分散したシステムの待ち行列ネットワーク・モデルにどのように組み込むかを記述する。
 イーサネットステーション(コンピュータ)を相互接続するために1本の同軸ケーブルを使用する。他のステーションと通信したいステーションはこのチャネル上にパケットブロ−ドキャスト(放送)する。(長いメッセージは転送前に複数パケットに分解される。) パケットは行先ステーションのアドレスと送りたいデータを含んでいる。全てのステーションはパケットを「見る」がパケットの宛先のステーションのみがそのパケットをそのローカル・メモリにコピーする。
 チャネルは全てのステーションで共用されるので、イーサネットのキーはチャネルへのアクセスが制御される仕方にある。イーサネットはキャリア・センス・マルチプル・アクセス・ウィズ・コリジョン・ディテクション(carrier sense multiple access with collision detection CSMA-CD)を用いている。Multiple accessは全てのステーションが同じチャネルを共用しているという意味である。Carrier senseはステーションがチャネル上の他のステーションからのデータを聞いているのであれば、どのステーションもパケットを転送し始めないという意味である。もちろんcollision(衝突)はそれでも起こる可能性がある。というのは2つのステーションが同時に(あるいは、実際にはチャネルの伝送遅れと同程度異なる時間で)転送を始めることが出来るからである。Collision detection(衝突検知)はステーションが転送している間、そのステーションは「聞いて」おり、もしそのような衝突を検出したら停止し、未来のある時点でリトライする、という意味である。イーサネットでは、そのようなリトライの前にステーションが遅れる時間の量の平均は、安定性が達成される結果の場合、チャネル上の負荷とともに増加する。
 イーサネットの実装は複雑であり、待ち行列ネットワーク・モデル内での詳細な表現を組み込む試みは賢明ではない。しかし、イーサネットは単純な内在する方針に基づいている。この方針の振る舞いを待ち行列ネットワーク・モデル内で表現することは可能である。さらに、シミュレーション結果と測定結果はそのようなモデルが正確な結果をもたらすことを示している。我々が用いようとする方法は2階層モデルである。低い層ではイーサネット効率(有用な仕事に充てられている帯域幅の割合)を瞬間負荷(同時にパケットを転送したいと思っているステーションの数)の関数として決定する。この分析の結果はFESCを定義するのに用いられ、そのFESCはシステム・レベル・モデルでチャネルを表現するのに用いられることになる。
 その期間Sがチャネルのラウンド・トリップ伝送時間に等しいようなスロットに時間が分割されると想像しよう。(これは全てのステーションによって衝突が検出されるのに必要な時間である。) ある数、n>0、のステーションがパケットを転送したく思っているような期間のスロットを考察しよう。もしどのステーションも転送しないならば、そのスロットは無駄である。もしちょうど1ステーションが転送するならば、そのステーションはチャネルを獲得し、自分のパケットを送信することを終えるまで転送を続ける。もし2以上のステーションが転送するならば、衝突が発生し、そのスロットは無駄になる。イーサネット制御方針は、n個のステーションがチャネルを使用したい時に個々のステーションが確率 1/nで転送するのを許すことによって1スロットの間にちょうど1ステーション転送する確率を最大にしようとする。(実際の実装は、nの値が知られていないのでこの方針と異なり、個々のステーションによって見積らなければならない。)
 もしn個のステーションがチャネルを使用したいと思い、また、それぞれが確率1/nで独立に転送するとするならば、それらのステーションのどれかが特定のスロットの間にチャネルを獲得するのに成功する確率は、ちょうど1個のステーションが転送する確率に等しい。つまり

  • A=\left[1-\frac{1}{n}\right]^{n-1}

である。どれかのステーションによる獲得成功前に競合(衝突)に充てられるスロットの数の平均は

  • C=\Bigsum_{i=1}^\infty{i}A(1-A)^i=\frac{1-A}{A}

である。n>0の時、定義によりチャネルはアイドル期間を持たない。時間は転送期間にはさまれた競合期間から成る。瞬間負荷nでのチャネルの効率は

  • E(n)=(転送期間の長さ)/(転送期間の長さ+競合期間の長さ)

で表すことが出来る。転送期間の長さは、ビット単位での平均パケット長Pをビット/秒単位でのネットワーク帯域幅Bで割ったものに等しい。競合期間の長さは、競合に充てられるスロット数の期待値Cかけるスロット期間S(構成のパラメータであり、ネットワークの長さに関係する)に等しい。換言すれば

  • E(n)=\frac{P/B}{P/B+C{\times}S}

である。PBSが与えられると、個々の実現可能なnの値について効率が代数的に計算される。次にFESCが以下のように定義される。

  • \mu(n)=B/P{\times}E(n)

換言すれば、イーサネットがパケットを伝達するレートは、その、パケット/秒単位での最大理論キャパシティ(B/P)かける、パケットを転送したいステーションが n個ある時に有効に用いられるキャパシティの割合(E(n))に等しい。このFESCはシステム・レベル・モデル内でイーサネットを表現するために用いられる。
 前述のように、シミュレーション結果との、また測定結果との比較は、この単純なモデル化方法がよい精度をもたらすことを示している。解析は、パケット・サイズの変動の性能への(無視できない)効果を表現するように拡張することが出来る。他のローカル・エリア・ネットワークを表現するために同じ2階層の方法を用いることが出来る。例えば、ケンブリッジ・リングについて対応する解析がなされている。


15.4.ソフトウェア・リソース」に続きます。