背教者ユリアヌス(上)

背教者ユリアヌス (上) (中公文庫)

背教者ユリアヌス (上) (中公文庫)

冒頭に、ホメロスオデュッセイアの冒頭である

  • かの人を我に語れ、ムーサよ

という言葉を引き、古代ギリシアの英雄ではなく、この物語では1人のローマ皇帝の生涯を描いています。キリスト教ローマ帝国で公認され、どんどんローマ帝国キリスト教化されていく中で、ギリシアの伝統と文化に強い憧れを持ち、数奇な人生を歩みながらやがて皇帝になり、ギリシアの伝統を復活させようとして失敗し(そのためキリスト教側からは背教者というあだ名を与えられた)、ペルシアとの戦争で受けた傷がもとで死んだユリアヌスです。
この(上)では、まず、ユリアヌスが生れてすぐに母親に死なれ、さらに父親を従兄弟コンスタンティウスに殺害され、自分は兄のガルスと一緒に幽閉されて育っていった様子が描かれます。一方、コンスタンティウスは皇帝になるのですが、常に猜疑する性格のこの男は、かつて自分が殺した叔父の子供たちを、部下を使って常に監視しているのでした。やがて、ローマ帝国ガリア地方を中心に反乱が起こり、その対処のためにコンスタンティウスは統治の協力者を求めてガルスを幽閉から解き、副帝に指名します。猜疑心の末、結局信頼出来るのは肉親だけだ、という結論に達したのです。一方、ユリアヌスも幽閉から解かれ、ニコメディアで古代ギリシアの詩文や哲学を教える学塾にかようことが出来るようになります。ガルスは副帝になってアンティオキアで東方の統治を始めますが、環境の激変に舞い上がってしまい、そこを人に陥れられて、皇帝への反逆を疑われ、やがて処刑されてしまいます。


今回読み直してみて、なかなかくっきりと日本から断絶した世界を構築している、と感じました。とはいえ、やはり日本人には思いつかないような、古代ギリシア・ローマの文化事象への参照が多い、ユルスナールの「ハドリアヌス帝の回想」には負けていると感じますが。