トゥーキュディデース 戦史

30年近く前に購入したのにまだ全然読めていません。そういう本は捨てなさいっ! と誰かに言われそうですが、これを機会に読み始めようかしらん。古代ギリシアのほぼ全体がアテーナイ側とスパルタ側に分かれて戦ったペロポネソス戦争を時間順に、当時としては驚くべき観察眼で記録していった歴史です。読みづらいのは書いた当人も言っている通りで、読者にこびるような作話を徹底して排除したからです。

私の記録からは伝説的な要素が除かれているために、これを読んで面白いと思う人はすくないかもしれない。しかしながら、やがて今後展開する歴史も、人間性のみちびくところふたたびかつての如き、つまりそれと相似た過程を辿るのではないか、と思う人々がふりかえって過去の真相を見凝めようとするとき、私の歴史に価値をみとめてくれればそれで充分であろう。この記述は、今日の読者に媚びて賞を得るためではなく、世々の遺産たるべく綴られた。


トゥーキュディデース「戦史」巻1・22より

私の直感は、この中には興味深い人物像がいくつも登場しているはずだ、とささやいています。それらを取り出してみたい、と思っています。私にはこのペロポネソス戦争の歴史が米ソの冷戦の歴史のように思えます。もう少し詳しく言うと、アテーナイがアメリカでスパルタがソ連のように見えるのです。
さて、アテーナイの大貴族にして民衆派の首領、沈着冷静なペリクレスは開戦に当たって民衆にアテーナイがこの戦争に勝つと予測出来る理由をいくつも挙げています。制海権を握っている間はアテーナイは負けない。スパルタ側がどんなに攻めてこようと、アテーナイ市民は城壁内に籠城すれば大丈夫だ、と。しかし、ペリクレスにも予想出来ない事態が発生します。籠城して人口過密になったアテーナイに疫病が発生したのです。そしてペリクレスもその病に倒れます。ペリクレスを失った民衆は歯止めが利かなくなり、より好戦的になっていきます。一旦は停戦協定が結ばれるのですが、野心家のアテーナイのアルキビアデースによって再び戦火が開かれます。アテーナイは衆愚政治になり、事態に適切に対応出来なくなり、最後には敗戦の憂き目を見ることになります。