M/G/sの待ち確率Πの近似(1)

《待ち行列における近似》――ORWiki」に

M/G/待ち行列の平均待ち時間以外の重要な特性量としては, 到着客の待ち確率(delay probability)\Pi_{M/G/s}が挙げられる. 理論的および数値的検証によって

  • \Pi_{M/G/s}\approx\Pi_{M/M/s}

が非常に良い近似となることが確かめられており, アーランの待ち確率近似(Erlang delay probability approximation)と呼ばれている.


《待ち行列における近似》――ORWiki

とあるのを、何とか(厳密ではなくても)証明しようというのがここ最近の私の課題でした。それが何とかなりそうになったので、私が何を考えたのかをこれから述べていきます。


私が得た最初のヒントは、木村俊一*1氏の「待ち行列におけるある近似の試み――経済学研究42-3 北海道大学 1992.12」の中の次の文章でした。

4 定常状態確率に対する近似


定常状態における任意時点のシステム内の客数をLで表し、定常状態確率をP_j=P\{L=j\}(j{\ge}0)で表すことにする。前節で求めたEWや、G/G/sで成り立つ種々の保存則、さらには\rhosに関する漸近的性質と整合する\{P_j\}の近似式を導くことはそれほど容易ではない。G/G/sに関する理論的研究は未成熟であり、当面、ポアソン到着過程を仮定すること、i.e.,M/G/sから始める必要がある。
 \{P_j\}に対する近似を導くこれまでのアプローチは、そのほとんどが(i)L{\le}sのときにはG/G/\infty、(ii)L>sのときにはG/G/1*2を適用して、その後両者を接続するという基本考え方の下で構成されていた。

でした。ここではM/G/sを考えていますから私は上の強調した部分をこう解釈しました。

(i)L{\le}sのときにはM/G/\infty、(ii)L>sのときにはM/G/1を適用


(ii)の「L>sのときにはM/G/1」はおそらく私が「リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(8)」から「(10)」で展開してきたやり方に関係しているのではないかと思っておりますが、未検討です。ただ、L>sでは

  • p(L+1){\approx}bp(L)
    • bは定数です。また上の引用ではP_jと書かれていたのを自分の慣れ親しんだ表記法に合わせてp(j)と書いています。p(j)は、時間平均で見た、系内に客がj個いる確率を表しています。)

と近似出来るのではないか、と考えています。そしてこれは拡散近似から考えて正当化出来ると考えました。「べき乗減衰の根拠 」参照。
問題はL{\le}sの場合です。私は今までこの場合のp(L)の分布の近似について何か言うことが出来ませんでした。しかし、他の文献からどうもこの場合p(L)M/M/sの時のp(L)で近似出来るということを知っておりました。もちろん、その根拠は知りませんでした。上の引用した箇所のもう少しあとには、こう書かれていました。

 Kimura[9]*3は、\rho{\le}1のときのM/G/s/rの定常状態確率の近似式として
P_j{\approx}
\frac{(s\rho)^j}{j!}P_0   j=0,...,s-1
(以下、略)

つまり[tex:j

*1:北海道大学大学院教授

*2:強調は私です。

*3:Kimura, T., "Approximating the steady-state probabilitis in the finite capacity M/G/s queue," in preparation