GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(1)

GI/G/s待ち行列の定常状態確率の近似が求まらない」では

くやしいですが、今の私ではGI/G/s待ち行列の定常状態確率の近似式を主張することが出来ません。

と書きました。もう壁にガツンとぶつかってしまったと思いました。でも、です。でも、その時、比嘉さんのエントリー「44歳、キングカズが語る「1センチでもいいから前へ進むんだ」」を思い出しました。サッカーのことはまったく分からない自分ですが、51歳のわたしも1センチ進んでみましょう。というのはカッコつけすぎかな? とにかく少しでも前に進もうということで「D/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて」の内容をGI/M/s待ち行列に拡張することを考えてみます。


ジョブが到着する間隔は確率密度g(t)で分布しているとします。つまりジョブが到着する間隔がtからt+dtの間にある確率はg(t)dtです。ジョブが到着する間隔がtであったとして、この間隔の間にジョブがk個処理終了する確率を求めます。ただしここでは、k個処理されたあともシステム内にジョブがs個以上ある場合について考えます。そうすると指数分布の処理時間でジョブを処理する装置がこのtの間に空かなかったことになります。1台の装置がtt+dtの間に処理を終了する確率は

  • \frac{1}{t_e}dt

です。よって、s台の装置のいずれかがtt+dtの間に処理を終了する確率は

  • \frac{s}{t_e}dt・・・・(1)

になります。よってこれは平均処理時間

  • \frac{t_e}{s}

の指数分布を持つ1台の装置と同等になります。よってtの間にジョブがk個終了する確率はポアソン分布になります。「ポアソン分布」の式(1)から、tの間にジョブがk個終了する確率p(k;t)

  • p(k;t)=\frac{({\lambda}t)^k}{k!}\exp(-{\lambda}t)・・・・(2)

となります。ここで

  • \lambda=\frac{s}{t_e}・・・・(3)

であるので、

  • p(k;t)=\frac{(st/t_e)^k}{k!}\exp(-st/t_e)・・・・(4)

となります。ジョブ到着間隔がtからt+dtの間にある確率はg(t)dtですから、あるジョブが到着して次のジョブが到着するまでに装置がジョブをk個処理する確率B(k)は式(4)とg(t)dtから

  • B(k)=\Bigint_0^{\infty}\frac{(st/t_e)^k}{k!}\exp(-st/t_e)g(t)dt・・・・(5)

になります。


さて、あるジョブ到着直前にシステムにジョブがj個あったとします。その次のジョブ到着直前にk個になる確率をC(j,k)で表すことにします。この間隔の間にジョブは1個到着しますが、処理完了するジョブは最大、全部終了する可能性があります。よってジョブが2個以上増える確率はゼロです。よって

  • C(j,k)=0  ただしk{\ge}j+2・・・・(6)

さらに、2番目の到着直前にジョブがs個以上残っている確率は式(5)を用いて

  • C(j,k)=B(j+1-k) ただしs{\le}k{\le}j+1・・・・(7)

2番目の到着直前にジョブがs個未満残っている確率には(7)は適用出来ません。それはB(k)を求めた過程から明らかです。ところで最初の到着直前にシステム内のジョブ数がjである確率を\pi(j)とすれば、次の到着直前でジョブ数がkである確率は

  • \Bigsum_{j=0}^{\infty}C(j,k)\pi(j)

で表されます。定常状態では、この確率は\pi(k)に等しいはずですから

  • \pi(k)=\Bigsum_{j=0}^{\infty}C(j,k)\pi(j)

になります。これが平衡方程式になります。これに(6)(7)を考慮すると
k{\ge}sの時

  • \pi(k)=\Bigsum_{j=0}^{\infty}B(j+1-k)\pi(j)=\Bigsum_{j=k-1}^{\infty}B(j+1-k)\pi(j)=\Bigsum_{j=k}^{\infty}B(j-k)\pi(j-1)

よって

  • \pi(k)=\Bigsum_{j=k}^{\infty}B(j-k)\pi(j-1)  ただしk{\ge}s・・・・(8)

となります。
さて、式(9)は「D/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(1)」の式(12)と同じなので、「D/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(1)」の式(13)と「D/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(2)」の式(15)が成り立ちます。つまり

  • \pi(k+1)=b\pi(k) ただしk{\ge}s-1・・・・(9)
  • b=\Bigsum_{j=0}^{\infty}B(j)b^j・・・・(10)

です。