クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(1)

ここでは「クローズド待ち行列ネットワークの基礎」で用いた記法を使用します。
状態\vec{k}に比べてステーションjだけジョブ数が1個多いネットワークの状態を\vec{k(j:+1)}で表すことにします。つまり、\vec{k}\vec{k(j:+1)}の各ステーションiのジョブ数をそれぞれk_iK_iで表すとすると、

  • i{\neq}jの場合
    • K_i=k_i
  • i=jの場合
    • K_i=k_i+1

です。


状態\vec{k}の定常状態確率をp\left(\vec{k}\right)で表すことにします。ジャクソン・ネットワークの中の全ての装置の処理時間の分布が指数分布であることを考慮すると、状態\vec{k(j:+1)}についての局所平衡方程式は以下のように書くことが出来ます。

  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}=\Bigsum_{i=1}^Np\left(\vec{k(i:+1)}\right)\frac{\min(k_i+1,m_i)}{t_{ei}}r_{ij}・・・・(1)

これの意味するところは、

  • 状態\vec{k(j:+1)}の時にステーションjからジョブの処理が完了して別の状態に遷移する確率のレート(つまりdtあたりの確率)

  • 状態\vec{k(i:+1)}の時にジョブがステーションiでの処理を終えてステーションjに向かい状態\vec{k(j:+1)}に遷移する確率レートを全てのiについて合計したもの

に等しい、ということです。


式(1)を「クローズド待ち行列ネットワークの基礎」の式(1)(ここでは番号を振り直して式(2)とします)

  • \theta_j=\Bigsum_{i=1}^N\theta_ir_{ij}・・・・(2)

と比較すると、(2)で

  • \theta_j{\rightar}p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}

と置き換えると(1)になることが分かるので、式(1)の

  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}

が式(2)を満たすことが分かります。ここで「クローズド待ち行列ネットワークの基礎」で述べたように、式(2)を満たす解は定数倍しても式(2)を満たす、ということに注意すれば

  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}=a\theta_j・・・・(3)
    • ただしajに依存しない定数

であることが分かります。
さらに、「クローズド待ち行列ネットワークの基礎」の式(3)(ここでは番号を振り直して式(4)とします)

  • \theta_j=\frac{m_ju_j}{t_{ej}}・・・・(4)

式(3)の右辺に代入すると

  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}=a\frac{m_ju_j}{t_{ej}}
  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)\min(k_j+1,m_j)=am_ju_j

よって

  • p\left(\vec{k(j:+1)}\right)=a\frac{m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)}・・・・(5)

となります。この式のjiに置き換えて

  • p\left(\vec{k(i:+1)}\right)=a\frac{m_iu_i}{\min(k_i+1,m_i)}・・・・(6)

が言えます。式(5)と(6)から

  • \frac{p\left(\vec{k(j:+1)}\right)}{p\left(\vec{k(i:+1)}\right)}=\frac{\min(k_i+1,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(7)

が任意のi,jの組について成り立ちます。