クローズド待ち行列ネットワークの基礎

クローズド待ち行列ネットワークでは、ジョブの到着は外部から与えられることはないので、到着分布を指定することはありません。クローズド待ち行列ネットワークを構成する各ステーションへのジョブの到着は、他のステーションからの出発過程として、あるいは、その分岐として、あるいはその合流として、自然に定まります。よってクローズド待ち行列ネットワークで前提条件として与えられるのは、各ステーションの装置台数や、装置処理時間の分布、ジョブ・クラス毎のジョブのラウティング、ジョブ・クラス毎のネットワーク内に存在するジョブの数です。各ステーションへのジョブ・クラス毎のジョブの流入量、つまりスループットも前提条件として与えられるのではなく、ネットワーク内に存在するジョブ数などを指定した結果として定まる量です。


クローズド待ち行列ネットワークの中で解析が簡単なのは、全ての装置の処理時間が指数分布であるものです。さらにジョブ・クラスが1つであるものがより解析が簡単です。これをクローズド・ジャクソン・ネットワークと呼ぶことにします。以下、クローズド・ジャクソン・ネットワークについて、その性質を調べていきます。


クローズド・ジャクソン・ネットワークのステーションの数をNとします。ステーションiの装置台数をm_iで表します。ステーションiを終えたジョブがステーションjに進む確率をr_{ij}で表します。ステーションiスループット\theta_iで表します。そうすると、ステーションjに入ってくる量\theta_j

  • \theta_j=\Bigsum_{i=1}^N\theta_ir_{ij}・・・・(1)

で表すことが出来ます。式(1)は\thetaについての連立一次方程式になっています。これを満足する\theta

  • \theta_j=f_j(R)・・・・(2)

と表わすことにします。ただしR(r_{ij})を簡略的に表わしたものとします。さてaを任意の定数として、式(1)で

  • \theta_ia\theta_i

で置き換えると、やはり式(1)が成り立ちます。つまり式(1)では\thetaは一意には決まらず、定数a不定になります。


ステーションiの装置の処理時間の平均値をt_{ei}で表します。ステーションiの装置の利用率u_iで表します。するとスループットの定義より

  • \theta_i=\frac{m_iu_i}{t_{ei}}・・・・(3)

が成り立ちます。


また、ステーションiに存在するジョブの個数をk_iで表します。クローズド・ジャクソン・ネットワークの状態は、オープン・ジャクソン・ネットワークと同様、各ステーションに存在するジョブの個数の組、つまり(k_1,k_2,...,k_N)として表されます。(k_1,k_2,...,k_N)をベクトルと考えて\vec{k}で表すことにします。