クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(4)

クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(3)」の続きです。

  • 定理1
    • ネットワーク全体でジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec{k}である確率と\vec{k(i:-1,q:+1)}である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合のP\left(\vec{k}\right)P\left(\vec{k(i:-1,q:+1)}\right)の比に等しい。


定理1を導出する過程でi=1にしてもこの導出が成立することに注意して下さい。また、定理1での状態\vec{k}\vec{k(i:+1.q:-1)}に置き換えると、\vec{k(i:-1,q:+1)}\vec{k}に置き換わります。よって定理1から状態\vec{k(i:+1.q:-1)}\vec{k}の間でも同様な関係が成り立つことが分かります。

  • 定理2
    • ネットワーク全体でジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec{k}である確率と\vec{k(i:+1,q:-1)}である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合のP\left(\vec{k}\right)P\left(\vec{k(i:+1,q:-1)}\right)の比に等しい。

さらに、状態\vec{k}\vec{k(i:-1,j:+1)}(ただしi{\neq}qj{\neq}q)について考えます。そして

  • 定理3
    • ネットワーク全体でジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec{k}である確率と\vec{k(i:-1,j:+1)}である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合のP\left(\vec{k}\right)P\left(\vec{k(i:-1,j:+1)}\right)の比に等しい。

が成り立つかどうかを調査します。遷移確率の比R

  • R=\frac{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(i:-1,j:+1,q:+1)}\right)dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p\left(\vec{k(q:+1)}\right)dt}

よって

  • R=\frac{p\left(\vec{k(i:-1,j:+1,q:+1)}\right)}{p\left(\vec{k(q:+1)}\right)}・・・・(17)

となります。式(7)

  • \frac{p\left(\vec{k(j:+1)}\right)}{p\left(\vec{k(i:+1)}\right)}=\frac{\min(k_i+1,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(7)

を状態\vec{k(q:+1)}\vec{k(i:-1,j:+1,q:+1)}に適用すれば

  • \frac{p\left(\vec{k(i:-1,j:+1.q:+1)}\right)}{p\left(\vec{k(q:+1)}\right)}=\frac{\min(k_i,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(18)

式(18)を(17)に代入して

  • R=\frac{min(k_i,m_i)m_ju_j}{min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(19)

次に式(7)を状態\vec{k}\vec{k(i:-1,j:+1)}に適用すれば

  • \frac{P\left(\vec{k(i:-1,j:+1)}\right)}{P\left(\vec{k}\right)}=\frac{min(k_i,m_i)m_ju_j}{min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・(20)

式(19)と(20)から

  • R=\frac{P\left(\vec{k(i:-1,j:+1)}\right)}{P\left(\vec{k}\right)}・・・・(21)

よって定理3が成り立ちます。


ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合の全ての状態は、合計ジョブ数が一定なので、ステーションijqの間でジョブ数を1つ移す操作を繰り返すことによって、任意の状態から別の任意の状態に変換することが出来ます。(iは1を含むことに注意) よって定理1、2、3から次の定理が導かれます。

  • 定理4
    • ネットワーク全体でジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec{k}である確率と\vec{k'}である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合のP\left(\vec{k}\right)P\left(\vec{k'}\right)の比に等しい。


最後に、ネットワーク全体でジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態の確率の合計は1であり、ネットワーク全体でジョブがw-1個ある場合の状態の確率の合計も1であることと、定理4から

  • 定理5
    • ネットワーク全体にジョブがw個ある場合に、ステーションqからステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態(到着するジョブを除く)の確率分布は、このネットワーク全体にジョブがw-1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

が導かれます。定理5でのステーション1やステーションqは任意のステーションですから、定理5から、次の定理が言えることになります。

  • クローズド・ジャクソン・ネットワークの到着定理
    • ネットワーク全体にジョブがw個あるとして、あるステーションにジョブが到着する時にそのジョブが見る(自分を除いた)システム全体の状態の確率分布は、このネットワーク全体にジョブがw-1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

が導かれます。これが、クローズド・ジャクソン・ネットワークの到着定理です。