平均値解析法(1)

平均値解析法(MVA:Mean Value Analysis)について私はこのブログで以前説明したつもりでいましたが、確認してみると「6.4.2.クローズドモデル解法:Quantitative System Performance」で、コンピュータ・システムへの適用を前提にした記事を和訳して紹介していただけでした。そこで、ここでは工場を対象にした平均値解析法の説明をします。ただし、工場を構成するステーションは全て1台の装置からなるステーションであり、これらの装置の処理時間は全て指数分布で分布する、という前提がないと、平均値解析法は適用出来ません。さらに、今は製品は1種類だけと仮定します。(つまり、工場内にラウティングが1種類しか存在しない。) 平均値解析法は複数製品が流れる工場にも適用出来るのですが、その場合は、計算手順がより複雑になります。


このような単一製品の工場がCONWIPで制御されているとします。そうすると、これはクローズド待ち行列ネットワークと考えることが出来ます。平均値解析法の基本の1つはクローズド・ジャクソン・ネットワークに適用出来る到着定理です。ジャクソン・ネットワークというのは装置の処理時間が全て指数分布であるようなネットワークのことを言います。(オープン・ネットワークの場合は、さらに到着過程が全てポアソン過程である必要があります。ここではクローズド・ネットワークを考えているので、到着過程はありません。)

  • クローズド・ジャクソン・ネットワークの到着定理
    • ネットワーク全体にジョブがw個あるとして、あるステーションにジョブが到着する時にそのジョブが見る(自分を除いた)システム全体の状態の確率分布は、このネットワーク全体にジョブがw-1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

この到着過程については「クローズド待ち行列ネットワークの到着定理(1)(4)」を参照して下さい。この定理からただちに次の定理を言うことが出来ます。

  • クローズド待ち行列ネットワークのWIP数をwとする。ジョブがあるステーションに到着した時に見る、そのステーションにあるジョブの数の平均値は、WIP数がw-1の時の同じクローズド待ち行列ネットワークにおけるそのステーションにあるジョブ数の平均値に等しい。


次に、ジョブがあるステーション(このステーションをステーションkとしましょう)に到着した時に、自分を除いてこのステーションにN_k個のジョブがいたとしましょう。その時、この到着したジョブがこのステーションでの処理を完了するまでの時間の期待値R_kを考えてみます。ステーションkの装置の平均処理時間をt_{ek}で表すことにします。すると、今、処理中のジョブが完了するのに要する時間の期待値は、処理時間が指数分布のためやはりt_{ek}になります。今、処理中のジョブが完了したあと、待っているN_k-1個のジョブが全て処理完了するのに要する時間の期待値は、(N_k-1)t_{ek}になります。その後、到着したジョブの処理の番になるわけですが、この処理時間の期待値はやはりt_{ek}です。すると、この到着したジョブがステーションkでの処理を完了するまでの時間の期待値R_k

  • R_k=t_{ek}+(N_k-1)t_{ek}+t_{ek}=(N_k+1)t_{ek}・・・・(1)

になります。ここまでの議論はN_k{\ge}1を前提にしていました。ではN_k=0の場合はどうかと言いますと、この場合は到着したジョブには待ち時間がないために

  • R_k=t_{ek}

になります。よってN_kが任意の自然数の場合に(1)が成り立ちます。
式(1)をステーションkに到着する全てのジョブについて平均を取ってみましょう。まず、R_kの平均はステーションkのサイクルタイムになります。これをCT_k(w)と表すことにしましょう。このwはネットワーク全体にあるジョブの数です。N_kの平均は上に述べた定理からネットワーク全体にあるジョブ数がw-1の時のステーションkのWIP数になります。これをWIP_k(w-1)で表すことにします。そうすると、以下の式が成り立つことが分かります。

  • CT_k(w)=\left(WIP_k(w-1)+1\right)t_{ek}・・・・(2)