GI/G/sの待ち確率Πを求めて(5)

GI/G/sの待ち確率Πを求めて(4)」で仮定した式(54)

  • k{\ge}sの場合
    • \pi(k){\approx}\frac{\beta}{u}p(k)・・・・(54)

の根拠づけと、この式に現れる\betaの値そのものの探求を行っていきます。そのために「GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布の近似式(1)」を振替ってみます。まず「GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布の近似式(1)」の式(8)(ここでは番号を振りなおして式(55)とします)

  • k+1{\ge}sの場合
    • \pi(k)=\frac{1}{u}p(k+1)・・・・(55)

に対応する式をGI/G/sの場合に求めてみようと思います。そして、「定常状態分布」のGI/G/sについてのp(k)の式

  • k{\ge}sの場合
    • p(k){\approx}b^{k-s}(1-b)\frac{(su)^s}{s!(1-u)}p(0)・・・・(5)

から

  • k{\ge}sの場合
    • p(k+1){\approx}bp(k)・・・・(56)

が導き出されますので、この式(56)を式(55)に代入して、ではなくてGI/G/sにおける式(55)に対応する式に代入して式(54)に似た形の式を導出し、そのことによって\betaの値を決定したいと思います。



では、GI/G/sについて「GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布の近似式(1)」での記述をなぞって考察していきます。到着直前にシステム内のジョブがk個だった場合、ジョブ到着によってk+1個になります。このk{\rightar}k+1の変化が単位時間あたり平均何回起きるか考えてみます。装置の稼働率u、装置の平均処理時間をt_eとすると、単位時間内の平均ジョブ到着数は

  • \frac{su}{t_e}・・・・(57)

となります。到着直前にシステム内のジョブ数がk個である確率はGI/G/sの場合でも\pi(k)で表されますので、単位時間あたりk{\rightar}k+1の変化が起きる平均回数は

  • \frac{su}{t_e}\pi(k)・・・・(58)

になります。ここまではGI/G/sであろうとGI/M/sの時と同様に成り立ちます。次に、単位時間あたりk+1{\rightar}kの変化が起きる平均回数を考えます。任意の時刻にシステム内にジョブがk+1個あったとしてそれがk個になるというのは、ジョブの処理が終了するということです。k+1{\ge}sの場合は、全ての装置が処理中ですから、このジョブ終了は、処理時間分布が指数分布(M)の場合には、単位時間あたり

  • \frac{s}{t_e}・・・・(59)

回になると、「GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布の近似式(1)」では説明しました。そして任意の時刻にシステム内にジョブがk+1個ある確率はp(k+1)なので、単位時間あたりk+1{\rightar}kの変化が起きる平均回数は

  • \frac{s}{t_e}p(k+1)・・・・(60)

になるとし、定常状態では単位時間あたりk{\rightar}k+1の変化が起きる平均回数とk+1{\rightar}kの変化が起きる平均回数が等しいはずなので式(58)と(60)が等しいと置き

  • \frac{su}{t_e}\pi(k)=\frac{s}{t_e}p(k+1)

から、

  • \pi(k)=\frac{1}{u}p(k+1)・・・・(55)

を導き出しました。しかし、この導出はよく考えるとおかしい点があります。k+1{\ge}sの場合は、全ての装置が処理中だからジョブ終了は、処理時間分布が指数分布(M)の場合には、単位時間あたり

  • \frac{s}{t_e}・・・・(59)

回になる、としましたがここには飛躍があります。1回処理終了すればシステムはジョブ数k+1の状態ではもはやないので、単位時間あたり何回であるかを考えるのはよく分かりません。そして式(60)ではその回数に状態k+1の確率p(k+1)を掛けているのですが、よく考えれば状態k+1の時に必ず処理終了が起こるわけではなく、新しいジョブが到着して状態k+1から状態k+2に遷移することも考えられます。よって、式(60)の意味は以下のように考えたほうが正しいと思います。
任意の時点でシステムが状態k+1になっている確率がp(k+1)である。そして、その時点からdt後までの間に処理が1つ完了する確率は、指数分布の記憶なし特性により常に一定の値であり、その値は

  • \frac{s}{t_e}dt・・・・(61)

である。よって、任意の時点で状態がk+1であり、かつ、そのdt後までの間に処理終了する確率は

  • \frac{s}{t_e}p(k+1)dt・・・・(62)

よって、単位時間あたりには

  • \frac{s}{t_e}p(k+1)・・・・(60)

となる。以上のように考えるのが正しいと思います。そうすると、このような考え方は処理時間が一般分布(G)の場合には、そのまま当てはまりません。それは一般分布は記憶なしではないからです。つまり任意の時点からdt後までの間に処理が1つ完了する確率は、装置の処理が開始されてからの時間に依存するからです。そこで考え方をちょっと変えてみます。


処理時間が一般分布(G)の場合、処理終了時に、終了直前の状態がk+1、ただしk+1{\ge}s、であるような処理終了の回数を単位時間あたりで計ります。その値の平均値をAで表すことにします。Aは装置台数sに比例することは容易に分かります。また、平均処理時間t_eに反比例することも分かります。さらに定常状態確率p(k+1)に比例することも分かります。よって比例定数\alphaを導入すれば

  • A=\alpha\frac{s}{t_e}p(k+1)・・・・(63)

と書けます。