GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(2)

GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」で、c_a^2=1の場合と、c_e^2=1の場合の式(8)

  • b=\frac{(c_a^2+c_e^2[c_a^2(1-u)+u])u}{(1+c_e^2)-(1-c_a^2-c_e^2[c_a^2(1-u)+u-1])u}・・・・(8)

の妥当性を確かめてきましたが、正直なところ私はまだ安心出来ていません。それは過去に和訳したWhitt教授の論文「Queueing Network Analyzer」に以下の箇所があることに気がついたからです。

 遅延の確率P(W>0)、ここでは\sigmaで表す、については、KraemerとLangenbach-Belzの近似*1

	\sigma{\eq}P(W>0)=\rho+(c_a^2-1)\rho(1-\rho)h(\rho,c_a^2,c_s^2)	(48)

を用いる。ただし、

	 h(\rho,c_a^2,c_s^2)=\left\{{\frac{1+c_a^2+\rho{c_s^2}}{1+\rho(c_s^2-1)+\rho^2(4c_a^2+c_s^2)}\text{    c_a^2<1}\atop{\frac{4\rho}{c_a^2+\rho^2(4c_a^2+c_s^2)}}\text{              c_a^2{\ge}1}}	(49)

公式(48)はM/G/1システム、つまり、\rhoについても正しい値をもたらす。(48)についてさらに支持する証拠はWhitt*2に含まれている。



Word Whitt: The Queueing Network Analyzer(13)」より


さて、式(8)のbはGI/G/s待ち行列の待ち時間の累積確率分布の近似を与える式、「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」の式(3)

  • F_q(t){\approx}1-\frac{b\Pi}{u}\exp\left(-\frac{2(1-b)st}{(1+c_e^2)t_e}\right)・・・・(3)

で用いられています。ここから

  • F_q(0){\approx}1-\frac{b\Pi}{u}・・・・(9)

を導くことが出来、さらにt{\ge}0なのでF_q(0)t=0、すなわち待ち時間がない場合の確率を表すことになります。よって、到着したジョブが待つ確率は

  • \frac{b\Pi}{u}・・・・(10)

となります。これは、上のQueueing Network Analyzerの引用で当時の私が「遅延の確率」と訳した\sigmaと同じ意味です。ただし、上の引用の箇所ではGI/G/1待ち行列を扱っています。つまりs=1です。そこでs=1の場合の式(10)を考えてみるとs=1\Pi=uになるので、結局、到着したジョブが待つ確率は

  • b

になります。はたしてbが上の引用に登場する式(48)(49)と一致するか、あるいは(どちらも近似式であるので)一致しないまでも近い値になるかどうか、が気になるところです。上の引用に登場する式(48)(49)を私がここで用いている記号で書き直しておきます。(式の番号も振り直しておきます。)

  • b=u+(c_a^2-1)u(1-u)h(u,c_a^2,c_e^2)・・・・(11)
  • h(u,c_a^2,c_e^2)=\left\{{\frac{1+c_a^2+u{c_e^2}}{1+u(c_e^2-1)+u^2(4c_a^2+c_e^2)}\text{    c_a^2<1}\atop{\frac{4u}{c_a^2+u^2(4c_a^2+c_e^2)}}\text{              c_a^2{\ge}1}}・・・・(12)

では、いろいろなuc_a^2c_e^2の値について式(8)で求めたbの値と式(11)(12)で求めたbの値を比べてみます。

*1:W. Kraemer and M. Langenbach-Belz,「待ち行列システムGI/G/1における遅延についての近似公式」Congressbook, Enghth Int. Teletraffic Cong., Melbourne, 1976, pp. 235-1/8.

*2:W. Whitt,「GI/G/1待ち行列における遅延の最小化」Oper. Res., 32 (1984), to be published.