「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式」の内容検討(1)

さて「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式(1)(8)」まででWolfgang Kraemer氏とManfred Lagenbach-Belz氏の論文「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式(Approximate Formulae for the Delay in the Queueing System GI/G/1)」の和訳を載せました。では、これからこの論文の内容で私が興味を持っている点を検討していきます。つまり「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(3)」で述べたように「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(2)」の式(11)(12)

  • b=u+(c_a^2-1)u(1-u)h(u,c_a^2,c_e^2)・・・・(11)
  • h(u,c_a^2,c_e^2)=\left\{{\frac{1+c_a^2+u{c_e^2}}{1+u(c_e^2-1)+u^2(4c_a^2+c_e^2)}\text{    c_a^2<1}\atop{\frac{4u}{c_a^2+u^2(4c_a^2+c_e^2)}}\text{              c_a^2{\ge}1}}・・・・(12)

の根拠を調べていきます。bはGI/G/1待ち行列の場合「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(2)」に書いたように、待ち確率、つまり、ジョブが到着した際に装置がふさがっているのを見る確率、と考えることが出来ます。
以下、Wolfgang Kraemer氏とManfred Lagenbach-Belz氏の上記論文の和訳を適宜引用していきますが、この論文中の数式に用いられている記号の体系は私が今までこのブログで用いてきた記号の体系と大きく異なっています。そこで引用する際には私が今まで用いてきた記号に修正して引用します。また、式の番号はこのエントリ群「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて」に合わせて振りなおします。


さて、上記(11)、(12)式の根拠を述べているところは、上記論文の「3.2 待ちの確率の近似」(「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式(4)」参照)のところです。「3.2.1 解法の基礎」には、まずb(論文内の記号ではW)の近似式の形を

  • b=u+(c_a^2-1)u(1-u)f(u,c_a^2,c_e^2)・・・・(13)

というように選択しています。ここでf(u,c_a^2,c_e^2)は今後求めるべき調整関数です。この式(13)を採用した理由がいくつか述べられています。一つは、c_a^2=1b=uが成り立つということです。c_a^2=1ですからc_a=1です。そして今は1次と2次のモーメントしか考慮していませんから、c_a=1であるような到着過程としてポアソン分布を想定することが出来ます。ポアソン到着過程であればPASTAが成立しますので、到着するジョブが装置がふさがっているのを見る確率は(上記論文ではGI/G/1を想定しているので装置が1台であることに注意して下さい)、時間平均で装置がふさがっている確率に等しくなります。つまりそれは稼働率uにほかなりません。ですので、上記論文がc_a^2=1b=uが成り立つと言っているのは正しい主張です。そこで式(13)にb=u+(c_a^2-1)×何がしか、という形を与えたのでした。しかし、ちょっと考えると別に(c_a^2-1)でなくても例えば(c_a-1)であってもかまわないことが分かります。なぜ(c_a^2-1)を選んだのかよく分かりません。今までの近似式を見るとたいていc_ac_a^2の形で現れるので、(c_a^2-1)を想定したのかもしれません。さらに、式(13)にb=u+(c_a^2-1)×何がしか、という形を与えたもうひとつの理由を上記論文は挙げています。それはc_a^2<1の場合[tex:b1]の場合b>uであるというのは良く知られた一般傾向だと言っています。私はうまく説明出来ませんがたぶんそうだろうと感じます。しかしここでもなぜ(c_a-1)ではなくて(c_a^2-1)なのか、という理由は明らかにされていません。次に、u\rightar{1}b\rightar{1}になること、そしてA\rightar{0}W\rightar{0}になることを述べています。これはubの定義を考えればすぐに分かることです。この2つの条件を満たすためにu(1-u)を式(13)につけ加えたということになります。



次に、D/D/1を考えています。この場合、u=1の場合を除いてbは常に0になります。D/D/1ですからc_a=0c_e=0です。これらを式(13)に代入すると

  • b=u-u(1-u)f(u,0,0)・・・・(14)

となり、u<1の時b=0ですから

  • 0=u-u(1-u)f(u,0,0)
  • u=u(1-u)f(u,0,0)

ここでu>0と仮定すると

  • 1=(1-u)f(u,0,0)

よって

  • f(u,0,0)=\frac{1}{1-u}・・・・(15)


次にu=0の場合は式(14)の右辺はf(u,0,0)の値が任意の有限の値の場合に0になりますので、f(0,0,0)の値は求めることが出来ません。逆に言えばu=0の時も式(15)が成り立つとすれば、式(14)の右辺は常に0になります。最後に、u=1の場合、式(14)の右辺はf(1,0,0)の値が任意の有限の値でb=1が成り立つのですが、もし式(15)を採用すると、u=1f(1,0,0)が無限になってしまうので式(14)の右辺の値が求まりません。よって、f(u,0,0)については、u<0の時、式(15)とだけにするのがよいでしょう。
式(15)から上記論文は

  • f(u,c_a^2,c_e^2)=\frac{1+ac_a^2+bc_e^2}{1-u+cc_a^2+dc_e^2} (c_a^2{\le}1)・・・・(16)

という一般形を推定しています。ただし、a,b,c,dはこれから求めるべき変数です。