P(Q>0)の推定(1)――GI/G/s待ち行列の近似式(by Ward Whitt教授)へのメモ

さて、GI/G/s待ち行列においてシステム内ジョブ数がk個である定常状態確率をp(k)で表した場合、k{\le}sの時のp(k)の近似には「[k≦mの時のp(k)の推定(3)]」の式(11)(ここでは番号を振り直して式(1)とします)

  • \frac{\alpha\Bigsum_{k=0}^{s-1}\alpha^k/k!}{\Bigsum_{k=0}^s\alpha^k/k!}=\frac{s[u-P(Q>0)]}{1-P(Q>0)}・・・・(1)

を利用すればよかったのでした。そうすると今度はP(Q>0)を求める必要がありますが、Whitt教授のこの論文では、

 P(Q>0)についての私の近似は、到着間隔時間Uと待ち時間Wの累積分布関数が与えられた条件でのP(Q>0)正確な式に基づいている。具体的には

  • P(Q>0)=\lambda{E}(\min\{U,W\})=\lambda\Bigint_0^{\infty}P(U{\ge}t)P(W{\ge}t)dt
    • =\lambda{P}(W>0)\Bigint_0^{\infty}P(U{\ge}t)P(D{\ge}t)dt・・・・(5.1)

である。Brumelle (1972、定理2と3)は公式(5.1)は基本的な待ち行列の関係H=\lambda{G}から演繹出来ることを示した。
 2つのコンポーネントの累積分布関数P(U{\le}t)P(D{\le}t)を、最初の2つのモーメントをマッチさせることで得た指数分布を含む便利な累積分布関数で近似することによって(5.1)に適用する。私はWhitt (1983a、p.2805)で説明した、セクションでのP(D{\le}t)についての手続きと本質的に同じ手続きに従う。計算を簡単にするために、ケース4では0.01{\le}c^2<0.501の場合シフトした指数分布(Whitt 1982b、p.138)を用い、c^2<0.01の場合決定論的分布を用いる。5×5=25ケースの全てについて積分を簡単に実行することが出来、よって近似した分布のパラメータ(\lambda,c_a^2)(ED,c_D^2)に関してP(Q>0)の閉形式の式を得ることが出来る。
 E(Q|Q{\ge}1)=(EQ)/P(Q>0)が必然的に1以上なので、P(Q>0){\le}EQでなければならない。EB=m\rho=mP(Q>0)+\Bigsum_{k=1}^mkP(N=k)なのでP(Q>0){\le}\rho。よって、最終の近似公式では、(5.1)に基づく近似を\min\{EQ,\rho,P(Q>0)\}で置き換える。


Whitt教授の「Approxomations for the GI/G/m queue」の翻訳(31) 」より

で求めることが出来ると主張しています。今度はこの内容を理解することに努めます。Uは到着間隔時間の確率変数、Wはジョブの待ち時間の確率変数です。最初の式は

  • P(Q>0)=\lambda{E}(\min\{U,W\})・・・・(2)

です。\lambdaは単位時間あたりに到着するジョブの数です。まず\min\{U,W\}がどのような意味を表しているか考えてみます。下の図を見て下さい。

k番目のジョブの待ち時間をWkで表し、k番目のジョブとk+1番目のジョブの間の到着間隔時間をUkで表しています。図から分かるようにWk>Ukならば必ず待っているジョブがあります。[tex:Wk

  • \Bigsum_{k=1}^N\min\{Uk,Wk\}・・・・(3)

となります。このNを大きくしていくと、到着間隔時間の平均が1/\lambdaなので、全体の期間は

  • \frac{N}{\lambda}・・・・(4)

になります。Nを非常に大きくして式(3)を式(4)で割るとP(Q>0)になりますから

  • P(Q>0)=\lim_{N\rightar\infty}\lambda\frac{\Bigsum_{k=1}^N\min\{Uk,Wk\}}{N}

よって式(2)が成り立ちます。