今年は残念ながらISSM(半導体生産国際シンポジウム)には行けませんでした。出席した人から予稿集を回してもらって興味のありそうな論文を探しています。
この論文は、興味があったので内容を紹介します。(株)日立のナカタ氏(論文は英語なので漢字が分かりません。おそらくは、中田氏だと思うのですがひょっとしたら仲田氏かもしれません)ほかが著者の論文
リニアツールのためのリアルタイム移載制御方法
です。
クラスタツールの真空ウェハ移載ロボットを2つ以上にしたものをリニアツールと呼ぶのだそうです。私は知りませんでした。この論文ではリニアツールの移載シーケンスの最適化を扱っています。シーケンスの組み方によってウェハ移載のスループットが異なってしまい、それが装置の処理スループットの差として表れるので、移載シーケンスをよりスループットの高いものにするのは重要な課題です。しかし、最適なシーケンスは各プロセスモジュールでのウェハの処理時間によって異なり、一概にどのシーケンスがよいとは言えないそうです。そこでシーケンスの最適化のために何らかの最適化の計算をする必要がありますが、それを行うには長時間(日の単位)かかる。ところが、リニアツールがFOUPを受け取りそのレシピを認識したらすぐに(1秒以内に)最適なシーケンスを決定したい。これがこの論文で解決したい課題です。
この論文で提案する解決法が私には興味深かったのですが、まず、1日程度の時間をかけて可能なレシピについて全て最適化の計算を行う。そしてその結果をデシジョンツリー(if文のかたまり)の形に変換してリニアツールのコントローラに保存しておく。リニアツールがレシピを認識したらこのデシジョンツリーを用いてすぐに最適移載シーケンスを決定する、というものです。
最適化の計算は、山登り法を用いています。この場合、必ずしも最適な結果を得ることがなく、局所最適なところで山登りが止まってしまいますが、この論文はそれでよい、としています。それ以上の最適化を試みるならば時間があまりにかかってしまい、実用的ではない、という判断です。それに山登りの最初に用いる移載シーケンスは、従来の移載シーケンスを用いるので、最適化の結果は最悪でも従来シーケンスであり、それ以上に悪くはならないとしています。この論文によれば、可能なレシピの集合についてこの最適化ロジックを適用したところ、その70%がなんらかの改善を示したとのことです。
このように複雑な計算を予め行っておき、その結果をif文の組合せで表すことで、処理時間を短くするというのは、他にも応用出来そうに思えて、私は興味を持ったのでした。