葬られた夏―追跡・下山事件 諸永裕司著

下山事件(シモヤマ・ケース) 森達也著」「下山事件 最後の証言 柴田哲孝著」と読んできましたが、同じ情報源から取材が始まった3冊の最後の1冊です。ところが発行順でいけばこの本が最初に出版され(その際の森達也氏の困惑については「下山事件(シモヤマ・ケース)」に記述があります)、その次に「下山事件(シモヤマ・ケース) 森達也著」が、最後に「下山事件 最後の証言 柴田哲孝著」が出版されたとのことです。3名の著者は多かれ少なかれ共同して取材を進めていったのですが、途中で仲間割れしてこのような3冊の本が生まれたのでした。
この3冊を読み比べてみて、同じ取材の話なのに、インタビューされる人の発言のニュアンスが異なっていて、同じ発言でもインタビュアーがどう受け取るのかについてこんなに差があるのか、と興味深かったです。ある意味ではそれはひとりの人物の様子や発言を多面的に見ることが出来たともいえますが、伝える者によって事実とされるもののニュアンスが(事実そのものではなくそのニュアンスというかこちらの受け取った印象なのですが)こうも変わるのか、というのは、今後、いろいろなニュースを読む際に心得ておかなければと思いました。


もう3冊目なのでかなりの話が重複していているのですが、この本の目新しいところは、アメリカに取材にいって当時のGHQの関係者にインタビューしている点です。ただし、あまり情報を得られていません。結局、下山事件の謎は解けないままです。この本は私にとっては正直あまりおもしろくはありませんでした。
3冊読んだ中では情報量の多さでは「下山事件 最後の証言」が優っていると思います。しかし、最初に読んだせいか私は森達也氏の「下山事件(シモヤマ・ケース)」が一番、素直に読めました。これは最初に読んだ話が先入観になって、あとの2冊をついつい色眼鏡で読んでしまったのかもしれません。本当のところ、この3名の間に何があったのか、私には判断出来ないと思っています。