好きなこと、出来ること、不得意なこと

出張の移動中に読む本として2冊をリュックの中に入れてきました。ひとつは以前は読んでいたけれど最近読まなくなった梅田望夫氏と茂木健一郎氏のフューチャリスト宣言

で、もう一冊は中野明氏の「17歳からのドラッカー

です。


両方の本を拾い読みしていて、(どちらも若い人向けのアドバイスとして書かれているのですが)自分の職業を選ぶ際の助言として、「好きなこと」「出来ること」「不得意なこと」と意見が分かれているのが、面白いと思いました。以下、それらの箇所を引用してみたいと思います。


まず、中野明氏の「17歳からのドラッカーから

「好きこそものの上手なれ」という言葉がある。「好きであること」が、何についても上達するための一番の近道だ、という格言だ。もちろん熱中できるものをもつのはとても大切だ。でも、「好きなこと」が自分の得意分野、つまり「強み」でない場合もある。

「好きなこと」が得意分野であることが確認できることもあるだろうし、不得意と思っていた分野で意外にも力を発揮できるのがわかることもある。そしてフィードバック分析の結果、注目すべきはもちろん、「できないこと」ではなくて「できること」だ。

このように著者が主張する根拠にはドラッカーの以下のような言葉があります。(なお、これらの文章は中野明氏著「17歳からのドラッカー」での引用の孫引きです。)

何事かを成し遂げられるのは、強みによってである。弱みによって何かを成し遂げることはできない。もちろん、できないことによって何かを成し遂げることなど、とうていできない。


ドラッカー「明日を支配するもの」

人間は、苦手とするものにおいて、抜きんでてすぐれた成果をあげることはできない。その苦手とするものを克服したあとでも無理である。すぐれた成果をあげられるのは、得意なものについてだけである。


ドラッカー「新しい現実」


これらのドラッカーの主張を踏まえて著者は次のように結論します。

「できることを、もっとできるように!」これを合言葉にしよう。「弱みの克服」なんて言葉にだまされてはいけない。とにかく「できること=強み」に集中しよう。


この主張は私には読んでいてなるほどと思わせるのですが、この時にたまたま持参していたもうひとつの本梅田望夫茂木健一郎 『フューチャリスト宣言』」では、それとは違った主張(若者への助言)が展開されています。

僕はいま、毎日のようにいろんな分野のすぐれた人と会って話をしているんですが、その中で出会った驚くべき事実があります。みんな誰でも欠点、弱点、だめなところを持っていますが、それこそが、自分にとっての最大のチャンスだっていうことです。


梅田望夫茂木健一郎フューチャリスト宣言」の中の「茂木健一郎特別授業『脳と仕事力』」(2006年11月26日 横浜国立大学教育人間学部での講演)より

強化学習の理論によれば、自分の弱点を乗り越えるというのは苦しいことで、そのためには厳しい通過儀礼が必要になるのだけれども、もし乗り越えることに成功したら、それだけ大量のドーパミンの放出がある。苦しいことやりきった後のうれしさって格別だよね。
 ということは。強化のメカニズムが非常につよく働く。最初から出来る人というのは、それをきれいにこなして終わりになっちゃうんだけど、苦手だったことをやる人というのは、すごく嬉しいわけ。だからこそやっているうちにオーバーシュートして、むしろ普通の人よりもはるかに上手くなるということがよくある。だから、苦手な場合の方がそこにちゃんと向き合って鍛えれば、自分のメシの種になる可能性があるかもしれないわけです。


同上


ここでは最初に紹介した主張

  • 「弱みの克服」なんて言葉にだまされてはいけない。とにかく「できること=強み」に集中しよう。

とは反対の主張がなされています。


では上記の本の共著者の梅田望夫氏がどう主張しているかというと、実は茂木健一郎氏とは異なった主張がなされています。

最後に、朝から晩まで情熱を傾けられることは何かということを、いろいろなことを試しながら、問い続けてほしいと思います。これは簡単なことではないですが、試していくと、ああ自分はこれが好きだという何かにきっと出会います。


梅田望夫茂木健一郎 「フューチャリスト宣言」の中の「梅田望夫特別授業『もうひとつの地球』」(2006年11月11日 慶応義塾普通部での講演)より


ここでは、最初に紹介した中野明氏の「17歳からのドラッカー」の、好きなことではなくて出来ることを重視しよう、という主張とは異なった意見が述べられています。

インターネットの向こうには無限の情報がある。たとえば、君たちがこの人に学びたいと思う人に、何か努力すればたどり着くことができる。好きであるということが競争力を生む。自分にはこういう能力があるから、こういうことができるからこういう仕事をやるんだ、そういうふうに考えると、どこかで行き詰まる。好きであることを見つけて、それを競争力につなげていく。そのとき、インターネットは僕らの時代よりうんと便利なもの、つまり能力の増幅器になっているわけだから、それを使って過去の人たちを大きく超えていくことができます。


この3者3様の意見が面白いと思ったので、ここにアップします。「では、おまえの意見はどれなんだ?」と問われた場合、私は正直なところ中野明氏の「17歳からのドラッカー」にある

「できることを、もっとできるように!」

というのが一番しっくりします。それは、「できること」という言葉のなかに自分が無意識のうちに「社会が対価を払ってくれるもの」という意味を含ませているからかもしれません。これらのことについては、もっと考えてみたいと思います。