マカロック・ピッツのモデル(2)

マカロック・ピッツのモデル(1)」では、マカロック・ピッツのモデルと実際のニューロンとの対応関係を示していなかったのでここで示す。
下図はニューロンの模式図(Wikipediaの「神経細胞」より)である。

  • 図1

ニューロンが発する電気信号は図の軸索(黄色の部分)を伝わって、軸索末端まで伝わる。軸索末端は別のニューロン樹状突起シナプス(図には名前が書かれていない)を介して結合する。軸索は通常1つのニューロンに1つしかないが、軸索末端が分岐するので、複数のニューロンに自分の信号を伝えることが出来る。シナプスには化学シナプス電気シナプスの2種類がある。人間の脳では大部分が化学シナプスであるために、マカロック・ピッツのモデルでは電気シナプスをモデルから除外している。マカロック・ピッツのモデルで化学シナプスにあたるのが

  • 図2

の小さい丸である。大きな丸が図1の細胞体にあたり、出力の線が軸索にあたる。図2にこれらの対応関係を記入すると図3のようになる。

  • 図3


ニューロンは細胞の膜の内と外の電位差に応じて電気パルスを発し、それが軸索に伝わる。電位差と電気パルスの頻度は下のグラフ

  • グラフ1

のような関係になっており、ある程度電位差が大きくなると電気パルスの頻度は上限に達してそれ以上増えない。マカロック・ピッツのモデルではこの関係を簡略化して下のグラフの赤線のようにみなしている。

  • グラフ2

また、パルス頻度の上限を1になるように尺度を取っている。このように簡略化すると、ニューロンはパルスを発していない静止状態とパルスを発する興奮状態の2つの状態を持つ、と近似的にみなすことが出来る。これに対応して軸索を通る信号は0(パルスなし)か1(パルスあり)の2通りがあると考えることが出来る。そこで、細胞膜内外電位差をuで、出力信号をyで表わすと

  • y=1(u)・・・・(5)

となる。


さて化学シナプスには、興奮性シナプス抑制性シナプスの2種類がある。他のニューロンからの電気パルスが興奮性シナプスに到着した場合は、パルスを受けた側のニューロンの電位差が上がる。つまり、ニューロンは興奮しやすくなる。他のニューロンからの電気パルスが抑制性シナプスに到着した場合は、パルスを受けた側のニューロンの電位差が下がる。つまり、ニューロンは興奮しにくくなる。マカロック・ピッツのモデルでs_iが正のシナプス興奮性シナプスを表し、s_iが負のシナプス抑制性シナプスを表す。また、ニューロンが静止状態の場合は電位差は-h(負の値)である。
さて、ニューロンが多数のシナプスから同時に電気パルスを受けた時の電位差uは(さまざまな付帯条件を無視すれば近似的に)

  • u=\Bigsum_{i=1}^ns_ix_i-h・・・・(6)

で決まる。ここでx_iは0または1の値をとる。式(6)を(5)に代入するとマカロック・ピッツのモデルの数式

  • y=1\left(\Bigsum_{i=1}^ns_ix_i-h\right)・・・・(1)

になる。


以上で、マカロック・ピッツのモデルと実際のニューロンとの対応関係の説明を終わる。マカロック・ピッツのモデルはニューロンの動作を近似的に模擬するモデルであり、実際のニューロンの動作はいろいろな局面でモデルと異なる場合がある。その動作の差を縮めようとするとモデルはどんどん複雑になり、理解がしづらいものになる。多数のニューロンの相互作用を考察するには、個々のニューロンの動作を単純なものとしてとらえたほうが考察がし易い。現実により近いモデルが一概によいものであるとは言えない。