線形代数学の復習:実対称行列は対角化可能である(3)

補題3】

実対称行列の固有空間は、実ベクトルのみからなる正規直交基底を持つことが出来る。
(証明)
Aを実対称行列とします。その固有ベクトルx、それに対応する固有値\alphaとします。すると

  • Ax=\alpha{x}

となります。
さて、固有値\alphaの固有空間V_{\alpha}は、以下の式で定義されます。

  • V_{\alpha}=\{x\in{C}^n|Ax=\alpha{x}\}

ここでnはベクトルxの次元の数であり、C^nn次元の複素数ベクトルの全体の集合を表します。これを変形すると

  • V_{\alpha}=\{x\in{C}^n|(A-\alpha{I})x=0\}

となります。\alphaは実対称行列の固有値なので補題2から実数であることが分かります。よって(A-\alpha{I})は実正方行列になります。よって補題1より、V_{\alpha}に属するベクトルは、必ずV_{\alpha}属する実ベクトルの一次結合として表すことが出来ることになります。ところで固有空間V_{\alpha}線形空間なので(その証明は略)、V_{\alpha}に属するベクトルのうち実ベクトルのみからなる集合W_{\alpha}、すなわち

  • W_{\alpha}=\{x\in{R}^n| x\in{V_{\alpha}}

線形空間になります。ただしR^nn次元の実ベクトルの全体の集合をあらわします。よってそれは正規直交基底[a_1,...,a_r]を持ち、しかもa_1,...,a_rは全て実ベクトルになります。さて、V_{\alpha}に属するベクトルは全てW_{\alpha}に属するベクトルの一次結合で表すことが出来るのでした。さらにW_{\alpha}に属するベクトルは全て、実ベクトルのみからなる正規直交基底[a_1,...,a_r]の一次結合で表すことが出来るのでした。ここから[a_1,...,a_r]V_{\alpha}の正規直交基底でもあることが分かります。よって、実対称行列の固有空間は、実ベクトルのみからなる正規直交基底を持つことが出来ることが証明されました。



実ベクトルのみからなる正規直交基底を並べて作った行列を直交行列というとのことです。

補題4】

直交行列UについてU^{-1}=U^Tが成り立つ。
(証明)
a_1,...,a_nを実ベクトルとしてU=[a_1,...,a_n]と表すことにします。するとa_1,...,a_nは正規直交基底を形作っており、しかも全て実ベクトルであることになります。正規直交基底の定義から1{\le}j{\le}n1{\le}k{\le}nj\neq{k}とすると、(a_j,a_j)=1(a_j,a_k)=0です。さらにa_1,...,a_nが実ベクトルであることを考慮するとこれらの式はa_j^Ta_j=1a_j^Ta_k=0と書くことも出来ます。
よって

  • U^TU=[a_1,...,a_n]^T[a_1,...,a_n]=\left[\begin{array}a_1^Ta_1&\cdots&a_1^Ta_n\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_n^ta_1&\cdots&a_n^Ta_n\end{array}\right]=\left[\begin{array}1&&O\\&\ddots\\O&&1\end{array}\right]=I

となるので、U^{-1}=U^Tが言えます。


補題5】

実対称行列A固有値\alphaとする。\alphaの固有空間V_{\alpha}の実ベクトルのみからなる正規直交基底を[a_1,...,a_r]とする。もしrが実対称行列Aの次元nに等しい場合、Aは直交行列U=[a_1,...,a_r]で対角化出来る。
(証明)
まず、固有空間V_{\alpha}が、実ベクトルのみからなる正規直交基底を持つことは【補題3】で保証されています。次に、対角化出来るということは、U^{-1}AUが対角行列(=対角要素以外が全てゼロの行列)になる、ということです。
r=nなので、U=[a_1,...,a_r]です。よって

  • AU=A[a_1,...,a_n]=[Aa_1,...,Aa_n]=[\alpha{a}_1,...,\alpha{a}_n]=\alpha{U}

よって

  • U^{-1}AU=U^{-1}\alpha{U}=\alpha{U}^{-1}U=\alpha{I}

となります。このことから、Aは直交行列U=[a_1,...,a_r]で対角化出来ることが分かります。