ドーリス人がペロポネソス半島に侵入した時の話です。ペロポネソスのスパルタを手に入れたのはヘラクレスの後裔アリストデモスでした。彼はアルゲイアをめとってエウリュステネスとプロクレスの双子を得ましたが、子供たちがまだ幼いうちに死んでしまいました。そこで彼の妻アルゲイアの兄であるテラスという者が双子の後見人となってスパルタの政治を執り行うようになりました。時は経ち、双子は成長してスパルタの王権をとるようになりました。奇妙なことですがこの双子はどちらも同時にスパルタの王になったのです。このあとスパルタはエウリュステウスの子孫とプロクレスの子孫の2つの王家を頂く特異な都市国家になりました。それはともかくとして、テラスはといいますと・・・・
ひとたび王権の味を知ったテラスは他人の支配下に甘んずることは耐えがたいとして、自分はスパルタに留まるつもりはなく、海外の同族の許へゆきたいといいだした。
ヘロドトス著「歴史」巻4、147 から
- 作者: ヘロドトス,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1972/01/17
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この「海外の同族の許」というのがテラ島でした。この島はテラスが行ったのでそれにちなんでテラという名前になったのであって、その前の名前はカリステ(「最も美しい」という意味)という名前でした。
現在テラと呼ばれている島は、以前はカリステと呼ばれていたがこれは同じ島で、当時はフェニキア人ポイキレスの子メンブリアロスの子孫が居住していた。すなわちアゲノルの子カドモスはエウロペの所在を探し求めながら、現在のテラに上陸したが、上陸後この地が気に入ったのか、あるいは他の理由があってそうしたのか、この島にフェニキア人を残していった。その中には自分の同族の一人メンブリアロスもいたのである。この者たちが当時カリステと呼ばれていたこの島に、テラスがスパルタから来島するまで八代にわたって居住していた。
ヘロドトス著「歴史」巻4、147 から
ということはテラスはフェニキア人なのでしょうか? ヘロドトスはそうだと考えていたようです。
ギリシア神話によりますとテーバイ(エジプトの町テーベではなくて、ギリシア本土の中部にある町)の王家の始祖カドモスはフェニキアからやってきたということになっています。するとテーバイはフェニキアの町だったかといいますと、その後の物語の中では普通のギリシア人として扱われているので、ここにどのような事情があったのかよく分かりません。ギリシア神話ではギリシア人と他の民族の境界が時々不明確になっています。さてテラスはこのフェニキアからやってきてテーバイを建設したカドモスの子孫にあたっていました。それでカリステに住む人々を自分の同族と言ったのでした。カドモスからテラスに至る系譜は以下のようになっています。
- 1.カドモス
- テーバイ市の建設者
- 2.ポリュドロス
- 3.ラプタゴス
- 4.ライオス
- 5.オイディプス
- 6.ポリュネイケス
- 7.テルサンドロス
- 8.ティサメノス
- 9.アウテシオン
- 10.テラス
このテーバイの王家にまつわる伝説は面白いのですが、それを述べ始めるとテラから話がそれてしまいますので、最初のカドモスの話だけをご紹介したいと思います。上の引用で登場した「アゲノルの子カドモスはエウロペの所在を探し求めながら、現在のテラに上陸した」という記述の背景になる物語です。