第3章 最適化 (1)

セクション9 1998/7/15

スコット第2章で出てきたマギーたちの利益分析に目をとめる。ERPシステムの主な金銭的メリットは、

  1. 売掛金の回収時間が短縮される。
    • 顧客へ出す請求書の作成ミスが減るから。しかし、それは利益への貢献は少ない。
  2. 原材料コストが減る。
    • 複数の工場が共同で購買活動をすることが可能になるため。
      • しかし、中規模の企業では、工場の数が少ない。1工場だけかもしれない。よって中規模の企業では、このメリットも減少する。
  3. 在庫が減る。
  4. 売上げが増える。
    • 3と4の理由は同じ。各地の流通センターから販売情報が工場へ届く時間が短縮されるため。
      • しかし、中規模の企業では、流通網が小規模。持っていない場合もある。よって中規模の企業では、このメリットも減少する。

スコットはここから、自社のERPシステムは中規模企業にとってはメリットが少ない、よって今のままでは中規模企業市場の開拓は困難と結論する。しかし、大企業へのERP販売は飽和しており、これまでのような成長率は望めない。
スコットは中規模企業の市場開拓のためにERPシステムにAPS(Advanced Planning and Scheduling)モジュールを追加することを提案する。しかしゲイルはそれに反対する。中規模会社であってもスタイン・インダストリーズ社はERPシステムで利益を出したではないか、と。スコットたちは、スタイン・インダストリーズ社を訪問することにする。

セクション10 1998/7/21

要約すれば、スタイン・インダストリーズ社CEOのゲリーから、利益を上げ得たのはTOCのおかげである、と説明した、ということになります。
要約すると簡単なのですが、いくつか注意して読まないといけないような気がします。

そこで、まずは自分たちの業務をチェックして、いかにしたらリードタイムを短縮できるのか、それを検討するチームを作ったんです。彼らがまず気づいたのは、実際に製造を始める前の段階・・・、製造前プロセスとでも呼びましょうか。それに二週間近く時間を取られていたことです。特に価格の見積り作業にです。それから原材料の不足が原因で、どのオーダーもあと少なくとも一週間は余分な時間が取られていることにも気づきました。この二つの問題に気づいた段階で、ERPがその解決策として浮上してきたわけです。

     中略

「・・・製造前プロセスを二週間から二日にまで縮めることができたし、原材料不足が原因でオーダーの出荷が遅れるということもほとんどなくなりました」
「なかなかのサクセスストーリーですね」マギーが話を締めくくった。
「サクセスストーリー? 誰がそんなことを言いました」ゲリーがニヤリと笑った。「完全な失敗でしたよ」
完全な失敗? なるほど、やはり話には裏があったのか。ここからが本題というわけだな。
「システムはちゃんと動き、リードタイムは短縮できた。それだったら思いどおりのはずでは? 売上げも増えたはずだと思いますが、何か問題でもあったのですか」スコットが訝るように訊ねた。
「システムはちゃんと動きましたが、リードタイムは短縮できませんでした」ゲリーが答えた。

     中略

「・・・その後のことですが、私とオペレーション・マネジャーの二人で、あるシンポジウムに参加したんです。コンストレインツ・マネジメント(制約管理)に関するシンポジウムで、ある企業によるTOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)導入事例のプレゼンテーションがあったんです。・・・」

     中略

そのプレゼンテーションを聞いて、なるほど、どうして結果が出せなかったのか、合点がいったのです。要するに製造前プロセスは二週間短縮できたわけですが、結局、製造工程への原材料の投入が二週間早まったにすぎなかった。つまり、単に製造現場が抱える作業が八週間分から一○週間分に増えたにすぎないということです。

まず、ここで私は引っかかりを覚えます。どうして製造前プロセスのリードタイムが二週間短縮できたのに、それが全体のリードタイムの短縮につながらなかったのでしょうか? これについては部分のリードタイム短縮がなぜ全体のリードタイム短縮につながらないのか?で述べます。