ロットサイズと到着間隔の変動係数の関係

25日の「ザ・ゴール」でのバッチサイズ縮小の記述の検討の最後で

  • バッチサイズを半分にした時、ジョブの到着間隔の変動係数c_aや装置処理時間の変動係数c_eは本当に変わらないのでしょうか?

と問いを発しましたが、装置処理時間の変動係数c_eについては、26日の[ロットサイズと処理時間の変動係数の関係:title=ロットサイズと処理時間の変動係数の関係]と27日の[ロットサイズと処理時間の変動係数の関係:title=ロットサイズと処理時間の変動係数の関係(2)]で検討しました。その結果、ロットサイズを半分にすると、装置処理時間の変動係数c_esqrt{2}倍になるという結論でした。
ここでは次に、ロットの到着間隔の変動係数c_aについて検討します。ここでは簡略化のために搬送装置による変動を無視します。もし、今、考察しているステーションにロットを供給するステーションが1つだけであり、しかもそのステーションが1台の装置だけからなるのでしたら、そのステーションでのロットの出発間隔がそのまま、考察しているステーションでのロットの到着間隔になります。
前工程のステーションでのウェハの出発間隔を互いに独立な同一の確率分布を持つ確率変数と考えて[ロットサイズと処理時間の変動係数の関係:title=ロットサイズと処理時間の変動係数の関係(2)]で検討した結果を適用すれば、装置処理時間の変動係数c_eと同様にロットの到着間隔の変動係数c_aにおいてもロットサイズを半分にすればsqrt{2}倍になると結論することが出来ます。
以上の結果をWhittの近似式

に沿って考えると、ロットサイズを半分にした時にt_eは半分になりますが、\frac{c_a^2+c_e^2}{2}は2倍になりますので驚くべきことにキュー時間CT_qは「変わらない」という結果になります。この結論によって22日の「バッチサイズ」で紹介した

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

の記述

「バッチサイズを半分にすれば、各バッチの処理時間も半分になる。つまりキュータイムとウエイトタイムも半分になり・・・」

は処理時間とウエイトタイムについては正しいがキュータイム(=キュー時間)については正しくないことが分かります。この結論はFactory Physicsにも載っています。
しかし、キュータイムはいつも「変わらない」とも結論出来ません。上記の結論は、前工程のステーションが1つでしかも1台の装置から成ると仮定しての結論でした。もし複数台あり、特に複数のステーションからロットが供給される場合については、Factory Physics

多くの発生源からジョブを受取る場合にはc_aは1に近くなる(つまり指数分布に近くなる)傾向がある

とあるので、ロットサイズを半分にする前も後もc_aは1に近い値と考えられます。もしそうだとすれば式(1)から、キュー時間CT_qは半分にはならないがある程度減少することが分かります。残念ながら、さまざまな装置群から来るジョブのCaについてで述べたようにFactory Physicsには、さまざまなステーション(=装置群)からジョブ(=ロット)が流れ込んだ場合の、到着間隔の変動係数c_aの求め方についての記述がありません。そこで、現状としては不完全ながら、

  • ロットサイズを半分にすると、キュー時間は
    • 前工程が1台の装置の場合は、減らない。
    • それ以外の場合は、減るが、半分までにはならない。

という結論で我慢するしかないようです。半導体ファブでは、多くのステーションが他の複数のステーションからロットの供給を受けるのでロットサイズを縮小することによるキュー時間短縮の効果はあると私は考えています。

議論の継続

ここでの議論は、以下の一応の結論に利用されます。