ロットサイズ縮小によるセットアップ(段取り)増加について

  • 29日の再びロットサイズ縮小の効果
    • ロットサイズを決定しているのは、搬送キャパシティとセットアップの回数と時間
  • という主張を述べました。搬送キャパシティについては解析が難しい(搬送シミュレーションに頼らざるを得ない)が、セットアップについてはシミュレーションなしに、なお考察出来る余地があると思いますのでゴールドラットの「ザ・ゴール」の記述を参考に、考えを進めたいと思います。まず、「ザ・ゴール」では、このように言っていました。(「バッチサイズ」参照)

「・・・ところで昨日の晩、ジョナとまた話をしたよ」
「ずいぶん改善できたって報告されたんですか」
「ああ。そうしたら次のステップを試すように言われたよ。ジョナは『論理的ステップ』って呼んでいたがね」
 ステーシーの顔が少し曇った。「何ですか、その論理的ステップというのは」
「非ボトルネックのバッチサイズを半分にするんだ」
 ステーシーは考え込みながら、一歩後ろに下がった。「でも、どうしてですか」
「そのほうが、もっとお金が儲かるからだよ」私は、ニヤリと笑いながら答えた。

  • ここでは「非ボトルネックのバッチサイズを半分にする」という主張が述べられています。「工場中全ての工程についてバッチサイズを半分にする」とは言っていません。その理由については、以下の記述が参考になりそうです。なお、以下の引用は、「バッチサイズ」で引用した部分に続く部分にあたります。

「どうした。何か問題でもあるのか」私は訊ねた。
「セットアップ時間はどうなるのですか。バッチサイズを半分にするのはかまいませんが、その分セットアップの回数が増えます。直接作業費はどうなるのですか。コストを下げるには、セットアップのコストを下げる必要があるのでは」
「誰かが質問すると思っていたよ。みんなでよく考えようじゃないか。ジョナが昨日電話で教えてくれたことなんだが・・・・、ボトルネックに部品が溜まって作業時間が失われていくことについては簡単なルールがあったが、これは覚えているかね? ボトルネックで一時間失われることは、工場全体で一時間失われることに等しいというやつだ。これに対応する別のルールがもう一つあるというのだ」
「ええ覚えています」ボブが答えた。
「ジョブが昨夜教えてくれたルールは、逆に非ボトルネックの作業時間を一時間増やしたところで、それは妄想にすぎないということだ」
「妄想?」ボブが怪訝な顔をしている。「どういう意味ですか、増えた時間が妄想とは。作業時間が一時間増えれば、それだけ作業する時間が増えるということでは?」
「いや違う。現在は、ボトルネックの作業ペースに合わせて資材の投入ペースを抑えているわけだが、これを始めてから、非ボトルネックにアイドルタイムが発生している。つまり機械が何もしない時間を使って非ボトルネックのセットアップをするわけだから、セットアップの回数が増えたとしてまったくOKなのだ。非ボトルネックのセットアップの回数を減らしたとしても、システム全体では少しも生産性は上がらない。つまり節約した時間とお金は妄想にすぎないということだ。セットアップの回数が倍に増えたとしても、非ボトルネックのアイドルタイムを全部必要とはしないはずだからだ」
「わかりました。説明はよくわかりました」ボブが答えた。

  • ここでは「ザ・ゴール」を通して重要な主張が出ています。
    • ボトルネックで一時間失われることは、工場全体で一時間失われることに等しい。
  • もう少し言葉を足せば、
    • ボトルネックが一時間遊ぶ(処理を行わない)ことは、工場全体が一時間遊ぶことに等しい
  • ということです。これについては「ザ・ゴール」の中に印象的な場面がありました(「ボトルネックの重要性」参照)。それはさておき、「ザ・ゴール」に登場している工場はバッチの1回1回にそれぞれセットアップ(段取り)が必要な工程からなる工場のようです。ですから、バッチサイズを半分にすれば、同じ量を生産するには2倍のバッチ数を処理する必要があり、セットアップ回数も2倍になる(そしてどうやら、バッチサイズが大きかろうと小さかろうとセットアップ(段取り)の時間は変わらない)ようです。よって、ボトルネックでのセットアップ回数が増えれば増えるほど、実際の処理に充てられる時間は短くなります。ボトルネックの定義からボトルネックキャパシティが工場全体のキャパシティを決定しているのですから(ボトルネックが一時間遊ぶことは、工場全体が一時間遊ぶことに等しい)、ボトルネックではセットアップ回数を増やすことは愚策です。よって、上記では「非ボトルネックのバッチサイズを半分にする」と言っているわけです。
  • ボトルネックではバッチサイズを半分にして、セットアップ回数が倍増してもかまわないのでしょうか? それを説明しているのが上記の引用です。ただし、もう少し正確に述べる必要があると思います。
    • ボトルネックに余裕が充分ある限りセットアップ回数が増加しても工場全体の生産性に悪影響を与えない。
  • あまりにセットアップが多すぎて非ボトルネックボトルネックになれば、やはり生産性が落ちるからです。

議論の継続