エジプトの神々

エジプトの神々 (文庫クセジュ)

エジプトの神々 (文庫クセジュ)

この本は、複雑な古代エジプトの神界を変に単純化せずに紹介しています。

 だから、昔のやり方にならって、エジプトを南から北へと歩きまわってみよう。そして、それぞれの地でおこなわれた祭式がどんなものかをみるとしよう。

そして、ナイル川を南から北にたどりながら、各都市での神殿に祭られる神々ついて淡々と簡潔に説明をして行きます。それは簡潔すぎて、謎を呼びおこします。その例として、最初の町「エレファンティネ」(ところでこれはギリシア語の地名ですね。古代エジプト語では何と呼んだのでしょう?)での記述を紹介します。

 いわゆるエジプトの南端、ついに水流が花崗岩の障碍をつらぬいて、自由な土地と海への道をきりひらくところ、そこには、当地でおこなわれていた象牙の交易から名をとたエレファンティネという町があった。その町は、瀑布の最北の島によっていて、今日知られるもっとも古い記録にその名がみえる。そこで神クヌゥムが祭られていた。その聖獣は牡羊だった。またこの神はつねにこの獣の頭をもって表現される。かれは瀑布を司っていて、そのもっとも好む宗教行事の一つは、その名を付した水差しでもって、この地の岩から噴出しているとされた豊饒の水を、かれの前にそそぐことであった。かれはのちに、きわめて古めかしい、うたがいもなくずっと南国産の女神が二柱、脇侍して加えられた。サティスはたぶんヌビアの射手とかかわりがあったろう。ずっとのち、その名がシリウス星ソティスと似ていたところから、ソティスとイシスに同化された。被りものとしてこの神には、角をそえた上部エジプトの白い王冠が与えられた。アヌゥキスは瀑布近辺の中心地としては最大のセヘル島を独占していた。この女神は、その高い羽毛の被りものがよく物語るとおり、まぎれもないアフリカ的性格をもっていた。しかし、これをサティスのようにエジプト化して、南の国にひきこもってしまった怒れる女神、それをエジプトの神々がどうしてもさがしにいかなければならなかったあの「太陽の目」に同化させてしまった。これらとクヌゥムの関係はどうもはっきりしない。サティスがその夫(CUSCUS注:おそらく「夫人」の間違い)であることはたしかである。アヌゥキスは第二夫人というより、この夫婦の間の娘とした方がよいのかも知れない。けれども、こうしたすべての操作の年代があいにくと不明なのである。

文中登場する「あの『太陽の目』」とは何でしょうか? ここには説明がありません。この本を最初に読んだのは今から30年近く前の大学生の頃ですが、何度もこの本にトライして、あまりの難解さに眠りこけていたことを思い出します。何度もトライせざるを得ないような魅力を、当時の私はこの本に感じていました。また、この本は、日本で紹介されることの少ない古代エジプトの宗教的文書の引用が多々あります。これもまた謎めいていて、魅力的です。例えば、このような文書です。

その聖なるみ姿は<地平の神>の仮り姿、
<ケンティ=エン=イルティ>、ミイラの姿をして、乾いたところにいる。
<ケンティ=イルティ>、そのとき日月がその表情をする、
左右の目は日輪と月輪であり、
その神の目から朝日、夕日が光り輝く

私の好きな本のひとつです。