バッチサイズ再考
「ロットサイズ縮小によるセットアップ(段取り)増加について」で述べたことをもう一度考え直します。「ザ・ゴール」をもう一度、引用します。
「・・・ところで昨日の晩、ジョナとまた話をしたよ」
「ずいぶん改善できたって報告されたんですか」
「ああ。そうしたら次のステップを試すように言われたよ。ジョナは『論理的ステップ』って呼んでいたがね」
ステーシーの顔が少し曇った。「何ですか、その論理的ステップというのは」
「非ボトルネックのバッチサイズを半分にするんだ」
ステーシーは考え込みながら、一歩後ろに下がった。「でも、どうしてですか」
「そのほうが、もっとお金が儲かるからだよ」私は、ニヤリと笑いながら答えた。
- ここでは「非ボトルネックのバッチサイズを半分にする」という主張が述べられています。「工場中全ての工程についてバッチサイズを半分にする」とは言っていません。その理由については、以下の記述が根拠のようです。
「どうした。何か問題でもあるのか」私は訊ねた。
「セットアップ時間はどうなるのですか。バッチサイズを半分にするのはかまいませんが、その分セットアップの回数が増えます。直接作業費はどうなるのですか。コストを下げるには、セットアップのコストを下げる必要があるのでは」
「誰かが質問すると思っていたよ。みんなでよく考えようじゃないか。ジョナが昨日電話で教えてくれたことなんだが・・・・、ボトルネックに部品が溜まって作業時間が失われていくことについては簡単なルールがあったが、これは覚えているかね? ボトルネックで一時間失われることは、工場全体で一時間失われることに等しいというやつだ。これに対応する別のルールがもう一つあるというのだ」
「ええ覚えています」ボブが答えた。
「ジョブが昨夜教えてくれたルールは、逆に非ボトルネックの作業時間を一時間増やしたところで、それは妄想にすぎないということだ」
「妄想?」ボブが怪訝な顔をしている。「どういう意味ですか、増えた時間が妄想とは。作業時間が一時間増えれば、それだけ作業する時間が増えるということでは?」
「いや違う。現在は、ボトルネックの作業ペースに合わせて資材の投入ペースを抑えているわけだが、これを始めてから、非ボトルネックにアイドルタイムが発生している。つまり機械が何もしない時間を使って非ボトルネックのセットアップをするわけだから、セットアップの回数が増えたとしてまったくOKなのだ。非ボトルネックのセットアップの回数を減らしたとしても、システム全体では少しも生産性は上がらない。つまり節約した時間とお金は妄想にすぎないということだ。セットアップの回数が倍に増えたとしても、非ボトルネックのアイドルタイムを全部必要とはしないはずだからだ」
「わかりました。説明はよくわかりました」ボブが答えた。
- 「ロットサイズ縮小によるセットアップ(段取り)増加について」を書いていてどうもひっかかったのは
非ボトルネックのセットアップの回数を減らしたとしても、(生産)システム全体では少しも生産性は上がらない。
- というところです。ここで言っている生産性というのは、単にスループットのことを言っているように思えます。
- というのであれば、話は分かります。生産システムのスループットを決定しているのはボトルネック・ステーションだからです。しかしサイクルタイムについて言えば「ロットサイズと装置の利用率uの関係(セットアップを考慮した場合)」からセットアップ回数が増えれば装置の利用率が増え、それは「ロットサイズとキュー時間の関係(セットアップを考慮した場合)」で述べたようにキュー時間を、そしてサイクルタイムを増加させるはずです。(なお、ここで「ロットサイズ」と言っているのは、「ザ・ゴール」の上記での引用における「バッチサイズ」と同じ意味です。) バッチサイズを半分にする前の非ボトルネックステーションの利用率が小さいのであれば、セットアップ回数が2倍になったとしても、利用率は1には近づかないのかもしれません。しかし、そのような非ボトルネックばかりとは限らないので全ての非ボトルネックについてバッチサイズを半分にする前に検討が必要だと思います。
- 検討すべき点は、利用率がどれだけ低いか、と、セットアップ時間がどれだけ長いか、です。セットアップ時間が極めて長いのであれば、セットアップ回数が2倍になると、たとえ最初に利用率が低かったにしても、利用率が1に近づく、あるいは越えてしまう可能性があるからです(この場合、バッチサイズを半分にしたことによりこのステーションがボトルネックになってしまったことになります)。
- 上の「ザ・ゴール」の引用では
セットアップの回数が倍に増えたとしても、非ボトルネックのアイドルタイムを全部必要とはしないはずだからだ
- とさらりと言ってのけていますが、これは必ずしも正しくはありません。