ロット到着間隔のWIPへの影響の考察(5)

ロット到着間隔のWIPへの影響の考察(3)」の最後に示した問い

この食い違いはどこから来るのでしょうか?

に答える努力を続けます。私が予想している答えは、Kingmanの近似式

  • CT_q=\left(\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\right)\frac{u}{1-u}t_e
  • 到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布である

という前提があるのだろう。これに反して、

  • 累積到着ロット数の「ノルマ」と「現実」の差が、ある一定数を越えない

という仮定は「到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布である」という仮定と両立しないのだろう、というものです。これは確信を持っているわけではありません。しかしこれから、どの程度この予想が正しそうであるかを検討していきたいと思います。
まず、「到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布である」ということの意味をはっきりさせておきたいと思います。

  • ロット1、2、3、4・・・が順番にステーションに到着するとします。この時、ロット1と2の間の到着時間の差(到着間隔)、と、ロット2と3の間の到着時間の差、と、ロット3と4の間の到着時間の差・・・、は全て確率変数です。「互いに独立な同一確率分布である」とは、このそれぞれの確率変数が互いに独立であり、かつ、これらの確率変数が同じ確率分布に従う、ことを意味します。このことから直感的に
  • 累積到着ロット数の「ノルマ」と「現実」の差が、ある一定数を越えない

ということと

  • 到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布である

ということは両立しないことが感じられます。しかし、もう少し確実にこのことを論証してみます。

「累積到着ロット数の「ノルマ」と「現実」の差が、ある一定数を越えない」ということは「到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布で」はない、ということの論証

同一の確率分布を持つ独立な複数の確率変数の和の変動係数」で示したようにある同一確率分布に従う互いに独立なk個の確率変数X_i (i=1...k)の和をSで表し、X_i (i=1...k)標準偏差STD(X)で、S標準偏差STD(S)で表すと、

  • STD(S)=sqrt{k}STD(X)

になります。よって、変動する到着間隔をk個足し合わせて求めたk+1個目のロット到着時刻の標準偏差sqrt{k}STD(X)(ただしSTD(X)は到着間隔の標準偏差)になります。ここからkが大きくなればなるほど、sqrt{k}STD(X)上限を持たずに大きくなります標準偏差がどんどん大きくなるということは、平均値との差がどんどん大きくなるということです。

  • どちらの方向に差が大きくなるのでしょう? それは確率的にですから、大きいほうへも小さいほうへも等しく差が大きくなります。
  • では何の差でしょう。それは「ノルマ」と「実際」におけるk番目のロットの到着時刻の差です。

ロットの平均到着間隔をaとすると、「ノルマ」(本当は「平均値」というべきでしょうが、工場現場の感覚から「ノルマ」と名づけました)の場合、k番目のロットの到着時刻はkaとなります。「実際」の場合のk番目のロットの到着時刻をt(k)で表します。STD(S)が大きくなるということは\{t(k)-ka\}^2の平均値のルートがどんどん大きくなるということになります。t(k)の時の「ノルマ」の方の累積到着数はt(k)/aになります。もちろんt(k)の時の「実際」の方の累積到着数はkです。kの増加と共に\{t(k)-ka\}^2の平均値のルートがどんどん大きくなるということは\{t(k)/a-k\}^2の平均値のルートもどんどん大きくなる、ということですから、「ノルマ」と「実際」の累積到着数の差もどんどん大きくなる、ということです。これは

  • 累積到着ロット数の「ノルマ」と「現実」の差が、ある一定数を越えない

に明らかに矛盾します。よって、「累積到着ロット数の「ノルマ」と「現実」の差が、ある一定数を越えない」ということは「到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布で」はない、ということになります。
これにつきましては、「ロット到着分布が独立でないということについて」も参照下さい。

Kingmanの近似式は、到着間隔分布が互いに独立な同一確率分布であることを前提にしていることの論証

論証は出来ませんでしたが、考察を「ロット到着間隔のWIPへの影響の考察(6)」に示します。