搬送時間が変動する場合への定理の拡張を試みて

搬送時間が変動する場合のロードポートネック」では、CETの実現値のいずれかが

  • CET>(LP-1)t_e

を満たすならば、ロードポートネックになる、と結論しました。それでは、逆にCETの全ての実現値が

  • CET{\le}(LP-1)t_e

ならばロードポートネックにならない、ということになります。CETの最大値をCET_{max}で表すならば、

  • CET_{max}{\le}(LP-1)t_e   ・・・(1)

ならばロードポートネックにならない、と表すことが出来ます。このことを踏まえて、「搬送時間ありG/D/1のサイクルタイム定理。CETとTUとTLは一定 の場合」で述べた定理

  • 定理(搬送時間ありG/D/1のサイクルタイム。CETとTUとTLは一定 の場合):
    • 上図のような構成でG/D/1 CETとTUとTLは一定、のモデルにおいて装置利用率uの時のロットのサイクルタイムg(u)とする。搬送時間やロードポートのない、通常のG/D/1の待ち行列の装置利用率uの時のロットのサイクルタイムf(u)とすると、もしCET\le{(LP-1)t_e}ならば
      • g(u)=f(u)+TU+TL
    • である。

の中の条件

もしCET\le{(LP-1)t_e}ならば

  • もしCET_{max}\le{(LP-1)t_e}ならば

と置き換え、さらにTUTLは変動するので

  • g(u)=f(u)+TU+TL

    • g(u)=f(u)+E(TU)+E(TL)  ただしE(TU)TUの平均値、E(TL)TLの平均値

と置き換えればよいように推測されます。しかし、搬送時間が変動する場合には、たとえ

  • CET_{max}\le{(LP-1)t_e}

であっても

  • g(u)=f(u)+E(TU)+E(TL)

であるとは言えません。これについては簡単な反例を示すことが出来ます。
今、搬送時間のないモデルで、下の図のようなガントチャートを考えます。この例では、ロット2はロット1の処理が終了して1分後に到着します。また、t_e=5分、LP=2とします。

  • 図1

この2つのロットにはまったく待ち時間がないので、このモデルでのロットの平均サイクルタイムは5分になります。次に上とまったく同じロット到着時刻を持つ、搬送時間のあるモデルを考えます。ただしTLは変動するのでロット1のTL(これをTL_1と表すことにします)は3分、ロット2のTL(つまりTL_2)は1分であるとします。(よって平均2分) またTUはロット1、2ともにゼロであるとします。またCET=TLとします。するとCETの実現値は1分と3分なので、

  • CET_{max}\le{(LP-1)t_e}

は成り立っています。このように条件を定めた場合、ガントチャートは下図のようになります。

  • 図2

ここでは、ロット2には待ち時間1分が追加されることになり、平均のロットサイクルタイムg(u)は7.5分になります。一方、f(u)、つまり図1でのサイクルタイムは5分、E(TU)=0分、E(TL)=2分。よって、5分+0分+2分=7分。よって

  • g(u)=f(u)+E(TU)+E(TL)

は成り立っていません。

では何が言えるのか?

それについては「【定理10】」からの考察で追求します。そしてその結論を「搬送時間ありG/D/1のサイクルタイム定理」に示します。