搬送時間ありM/G/1のサイクルタイム定理

搬送時間ありG/G/1のサイクルタイム定理の意味」で述べた、ロット到着間隔が指数分布の場合の定理について述べます。
ロット到着系列、すなわちロット到着時刻の集合、の個々の到着時刻にTLを足して別のロット到着系列を作成する、という作業を考察します。ここでTLは確率的に変動する変数です。TLがとる値の確率密度関数p_{TL}(t)を考えます。

一方、ロット到着間隔が指数分布であるような到着系列は、到着発生の確率密度が時間にかかわらず一定であるような系列と考えることが出来ます。(その理由については「補足:指数分布について」を参照して下さい。)
ロット到着が発生する確率密度をh_1(t)で表すと、h_1(t)=cです。ただしcは定数です。ロット到着系列の個々の到着時刻にTLを足して出来た到着系列の時刻tにおける確率密度は、t_1+t_2=tになるようなt_1におけるもとの到着系列の存在確率密度h_1(t_1)、かける、TLの値がt_2になる確率密度p_{TL}(t_2)をあらゆる可能なt_1,t_2の組合せで総計(積分)したものになります。よって新しい到着系列の確率密度をh_2(t)とすると、t_1=t-t_2に注意すれば、

  • h_2(t)=\Bigint_0^{\infty}h_1(t_1)p_{TL}(t_2)dt_2=\Bigint_0^{\infty}h_1(t-t_2)p_{TL}(t_2)dt_2
  • =\Bigint_0^{\infty}cp_{TL}(t_2)dt_2=c\Bigint_0^{\infty}p_{TL}(t_2)dt_2=c{\times}1=c

よって

  • h_2(t)=c

となり、新しいロット到着系列はTLの確率密度分布の形に関わらず、もとのロット到着系列と同じ確率密度を持つ指数分布のロット到着系列になることが分かります。つまり、デタラメに到着するロットにさらにTLを足しても同じデタラメさの到着系列になるということです。
以上のことを用いれば、搬送時間ありG/G/1のサイクルタイム定理は、ロット到着が指数分布の時(すなわちM/G/1の時)以下のように変形することが出来ます。

搬送時間ありM/G/1のサイクルタイム定理

  • 定理(TLが一定の場合のG/G/1のサイクルタイム):
    • 上図のような構成のM/G/1のモデルを考え、これをモデルM1と呼ぶことにする。M1から搬送時間とロードポートを省いた、通常のG/G/1の待ち行列を考え、M1と同じロット到着系列を与える。これをモデルM2と呼ぶことにする。M1において装置利用率uの時のロットのサイクルタイムg(u)とし、M2において装置利用率uの時のロットのサイクルタイムf(u)とする。もし、全てのpについて
      • CET_{max}\le{\Bigsum_{j=p}^{p+LP-2}{t_{ej}}}
    • ならば
      • g(u)=f(u)+E(TU)+TL
    • である。ただしE(TU)TUの平均値を表す。また、t_{ej}はロットjの処理時間を表す。

半導体ファブの場合、あるステーションへロットを供給するステーションが多数ある場合が多く、このような場合は、ロット到着間隔を指数分布で近似できるので、この定理を適用出来る場合が多いです。