「サイバネティックス」という本の「序章」(1)

上位エントリ:サイバネティックス


ここでは、「サイバネティックス」という本の「序章」の内容を紹介します。序章はこの文章から始まります。

 この書物は、当時ハーバード大学医学部に在職し、現在はメキシコの国立心臓医学研究所(Instituto Noacional de Cardiologia)にいるアルトゥーロ=ローゼンブリュート(Arturo Rosenblueth)博士とともに10年以上前から行ってきた一連の研究の成果である。

ウィーナーの文章は体系化されていない感じがします。ダラダラといろいろな話が続きます。最初に、ハーバード大学医学部のキャノン博士とローゼンブリュート博士の主催する月例討論会のことが登場します。それがいつの頃のことなのかよく分かりません。文章には「その頃」と書かれていますが、文脈から推測すると1936,7年ぐらいのように思われます。

参加者はおもにハーバード大学医学部の若い科学者たちであった。・・・・科学的な方法論の論議が最大の、少なくとも主要な、問題とされるような事柄が選ばれた。・・・・参加者がすべて、医者や医学研究者であったわけではない。

そこにはマサチューセッツ工科大学(MIT)物理学科のヴァリヤルタ教授が参加していて、ウィーナーは彼の紹介でこの会合に参加したと記されています。しかし、この会合がどのようにサイバネティクスの誕生にかかわったのかの記述がないまま、次の話題に行ってしまいます。



次の話題は、ローゼンブリュートとウィーナーは、「だいぶ前から」(また、あいまいな時間の記述です)「ある科学の研究部門」が存在していて

そこでは純粋数学統計学・電気工学・神経生理学の各方面からの研究が同時に行われ、同じことにそれぞれの部門で別々の名前がつけられ、重要な研究成果が三重にも四重にも別個にまとめあげられているかと思うと、ある部門ではすでに古典的とさえなっている結果が、他の部門ではあまり知られずに研究が遅れている

ことに気づいた、ということです。先回りして言えば、この「研究部門」がサイバネティックスになったわけです。この話もまたあまり結論のないまま、次の話に移ります。



それは、ヴァネヴァー・ブッシュ(Vannevar Bush)の(アナログ)微分解析機という一種の計算機の研究計画にウィーナーがかかわっていた、ということとリー(Yuk Wing Lee)とともに電気回路網の設計を研究していた、という話です。そしてこんな提案をした(文脈からみて1940年のことらしい)、と書いています。

  1. 計算機の中心部分である加算と乗算の装置は・・・・計数式(CUSCUS注:今の言葉で言えば「デジタル」)のものとすること
  2. ・・・・電子管(CUSCUS注:真空管のこと。この本の発行が1948年であることに注意)で構成すること。
  3. ・・・・加算・乗算などの計算には10進法よりも2進法を用いたほうが経済的・・・・
  4. 演算の全過程を計算機の内部に置いて、データが計算機にはいり、計算の最終結果がとりだされるまでのあいだ、人が介入しなくてもよいようにすること。またそのために必要な論理的判断は、計算機が自ら行うこと。
  5. 計算機は、データを蓄える装置を内蔵すること。・・・・

そしてこれらについて

これらは今日の超高速度計算機(CUSCUS注:ENIACとかEDVACとかごく初期のコンピュータのことを指している)にとりいれられている考えかたのすべてをつくしているのである。

と誇りながら、

これらの考えは、その当時多くの人々が抱いていた思想のうちにあったのであって、私一人だけでそういうことを考えついたとは、すこしも主張するつもりはない。

と続け、自己主張を弱めています。
こうして、序章の記述は、よく分からない中心のまわりをめぐりながら、続きます。

まとめ

  • ハーバード大学の医学者キャノン博士の、科学に関する月例討論会
  • 純粋数学統計学・電気工学・神経生理学が重なる科学の領域があることに、ローゼンブリュート博士と気づいていた
  • 1940年に、今日のコンピュータの基本設計思想にあたるもの記したメモをブッシュ博士に送ったこと

「サイバネティックス」という本の「序章」(2)」に続きます。