「サイバネティックス」という本の「序章」(3)

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引き続き「サイバネティックス」という本の「序章」の内容を紹介します。
次に、通信工学が統計的(むしろ確率的というべきでしょう)な性質を持つことについての説明が出てきます。

通信工学の場合には統計的要素のもつ意義は一見して明らかである。すなわち情報を送るということは、二つのことがら(yesかno)のなかのどちらか一つを送るということによって成り立つ。伝達すべきことが一つだけしかないならば、通報を送るまでもない。・・・・電信や電話は、それらの伝達する通報が、過去によって完全には決定されない変化をたえず行っているときに、その機能をよく果たしているのであって、これらの通報の変化が一種の統計的規則性をもつときに、はじめて効果ある設計をすることができる。


そして、ここから情報量の理論を導き出した、と続けています。いわゆるシャノンの情報量の理論です。

通信工学をこのような立場から把握するには、’情報量’なるものについての統計的な理論を発展させなければならなかった。この理論では、同等に確からしい二つのことがらから、そのうちの一つを1回選択するときに伝えられる情報の量を情報量の単位とする。(CUSCUS注:現代の言葉で言えば「ビット」ですね) この着想は、統計学者フィッシャー(R.A. Fisher)、ベル電話研究所のシャノン(Shannon)博士、および私を含む数人の研究者がほとんど同時に考えついたものである。フィッシャーのこの研究の動機は古典的統計理論からであり、シャノンの動機は情報の符号化(coding)の問題からであり、著者の動機は電気濾波器による雑音と通報の分離の問題からであった。

そうは言っても、現在の時点から見れば情報量の理論といえばシャノンの名前だけが有名です。さらに、この「サイバネティックス」という本を全部読んでも、情報量の定義に基づいた理論展開はあまりないようにみえます。そのため、ウィーナーがこの着想の重要性をどの程度認識していたのか私は疑問に思っています。
「雑音と通報の分離の問題」については「第3章 時系列、情報および通信」で扱われているので、そこを検討する際にもう一度、検証したいと思います。次に、

情報量の概念は、統計力学における古典的なエントロピーの概念ときわめて自然に結びついている。

と述べています。これはいろいろな「情報理論」の本に述べられていることなので説明は不要でしょう。


さて、ここまで来てやっと「サイバネティックス」(あるいはサイバネティクス)という言葉の由来の話になります。

このようにして4年ほど前(CUSCUS注:1944年のことと思われる)にはすでに、ローゼンブリュート博士と私のまわりの科学者のグループは、通信と制御と統計力学を中心とする一連の問題が、それが機械であろうと、生体組織内のことであろうと、本質的に統一されうるものであることに気づいていた。・・・・・この分野の名前についてわれわれは熟考した結果・・・科学者がよくするように、ギリシャ語から一つの新造語を造って・・・’サイバネティックス’(Cybernetics)という語でよぶことにしたのである。これは’舵手’を意味するギリシャ

からつくられた語である。

このあと

このようにサイバネティックスという言葉は1947年の夏より前にはなかったわけであるが

とあるので、サイバネティクスという言葉は1947年夏に誕生したことになります。
「サイバネティックス」という本の「序章」(4)」に続きます。