「サイバネティックス」という本の「序章」(まとめ)

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『サイバネティックス』という本の「序章」(1)」から「『サイバネティックス』という本の「序章」(8)」まで序章を私なりに読み込んで来ました。ここではそのまとめをしたいと思います。


サイバネティクスとは本来何だったのか、私の仮説は以下のようなものです。

  1. 第二次大戦中、高射砲の問題に取り組む際、ウィーナーは以前に開発していたブラウン運動の理論を応用した。そこから確率論的通信工学への応用が開けてきた。確率論的通信工学から情報の概念が出てきた。また、同じく高射砲の問題からフィードバックの重要性が見えてきた。そこでフィードバックを情報の観点から見直した。
  2. 一方、それより約10年前よりキャノン博士の医学的討論会に参加していたので生物学の問題への数学の応用に関心があった。前項に述べた進展により、生物における情報の伝達とフィードバックの重要性をウィーナーは主張した。
  3. ここにマカロックとピッツが合流して、ニューロンの働きを情報伝達であると見る見方を発展させ、彼らが、ニューラルネットワークによって論理計算が出来ることを示した。
  4. この頃、アメリカ各地でコンピュータの開発が始まり、その開発グループとの交流が始まった。このことは、コンピュータを一種のニューラルネットワークとみなす考えを促進し、ニューラルネットとコンピュータが脳の働きを説明しているように思われた。これはフィードバックという概念を元にして生物と機械の類似性を見出す思考法につながるものである。この類似性はニューラルネットワークによって脳のさらに高度な機能を説明することを企てることを促した。
  5. その延長線上で、ニューラルネットとフィードバックという観点が精神医学に何らかの寄与が出来るように思われ、さらに情報の伝達とフィードバックという見方の社会科学への影響を考察した。

私が以前からひっかかっていたのは、ウィーナー自身が

このようにしてわれわれは、通信工学における設計の問題から、統計力学の一分野と見られる一つの統計的な科学をつくりあげることとなった。

というところからサイバネティクス一種の統計力学とみなす考え方でした。これはウィーナー自身がいろいろな箇所で言っている見方なのですが、私にはコンピュータの話のどこが統計力学なのか理解できなかったのです。
今、こうしてまとめてみると、上記1、2については「一種の統計力学」といえるのですが、3以降はそれをはみだしていると私には思えます。そして1、2についてはウィーナーは積極的に数学的理論を構築していったが、3以降については他の人々の業績であり、ウィーナーは文章で思索を残したが数学的理論を構築しなかった、と理解しています。そしてウィーナーが「サイバネティクス」を説明する際、上記1〜5全体としてのサイバネティクスを指す場合と、自分が直接手がけた1、2としてのサイバネティクスを指す場合があり、「一種の統計力学」であるのは後者だと考えています。


では、1、2を3以降に結びつけたものは何かと言えば、それは情報という概念だったと考えています。


短く言えば、サイバネティクスとは、

  • 情報の観点から見た生物機械の類似性を数学を武器に見出し研究する学問

として構想されたと私は考えます。


「サイバネティックス」という本の「第1章 ニュートンの時間とベルグソンの時間」(1)」に続きます。