M/M/2→M/1待ち行列の解析

先行エントリ:M/1一般ネットワークの場合の積形式解存在の証明


M/1一般ネットワークの場合の積形式解存在の証明」では、ネットワークを構成するステーション全て1台の装置からなるという制限がありました。しかしジャクソンネットワークは複数台の装置から成るステーションを許しています。今日は、一般的なジャクソンネットワーク積形式解の存在を証明する前段階として、下図のような待ち行列ネットワークを考え、その積形式解の存在を証明することを試みたいと思います。

装置1、2の利用率、処理時間をそれぞれu_1u_2T_{e1}t_{e2}とします。また装置1にロットが到着するスループット\lambda_1とします。この図に対応した局所平衡方程式を表す遷移図を下に書きます。

この図では、状態(k+1,m)→状態(k,m+1)の遷移の量を書き込んでいません。それはk+1の値が1の時と2以上の時では(つまりkの値がゼロの時と1以上の時では)遷移の量が異なるからです。kの値がゼロの時は、遷移の量が

  • \frac{1}{t_{e1}}

ですが、kの値が1以上の時は遷移の量が

  • \frac{2}{t_{e1}}

になります。つまり

となります。よって、

  • p(1,m)\frac{1}{t_{e1}}=p(0,m)\lambda_1・・・・・・(1)
  • p(0,m+1)\frac{1}{t_{e2}}=p(1,m)\frac{1}{t_{e1}}・・・・・・(2)

また、k{\ge}1の場合は

  • p(k+1,m)\frac{2}{t_{e1}}=p(k,m)\lambda_1・・・・・・(3)
  • p(k,m+1)\frac{1}{t_{e2}}=p(k+1,m)\frac{2}{t_{e1}}・・・・・・(4)

また

  • \lambda_1=\frac{2u_1}{t_{e1}}=\frac{u_2}{t_{e2}}・・・・・・(5)

が成り立ちます。まず、式(1)に式(5)を用いて

  • p(1,m)\frac{\lambda_1}{2u_1}=p(0,m)\lambda_1

よって

  • p(1,m)=p(0,m)2u_1・・・・・・(6)

次に式(3)に式(5)を用いて同様に変形すると

  • k{\ge}1の時、p(k+1,m)=p(k,m)u_1・・・・・・(7)

これは、「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(2)」における式(8)と式(9)と本質的に同じなので、同様の考察から以下のように言えます。利用率u_1に等しいM/M/2待ち行列における状態kの発生確率をp\left{M/M/2,u_1\right}(k)で表します。するとp(k,m)は、

  • p(k,m)=c_1p\left{M/M/2,u_1\right}(k)p(0,m)・・・・・・(8)

と表すことが出来ます。ただし、c_1は規格化定数です。(「M/M/2→M/1待ち行列の解析(補足)」参照)。一方、式(2)の右辺に式(1)を代入して

  • p(0,m+1)\frac{1}{t_{e2}}=p(0,m)\lambda_1

式(4)の右辺に式(3)を代入して

  • k{\ge}1の時、p(k,m+1)\frac{1}{t_{e2}}=p(k,m)\lambda_1

よって全てのkについて

  • p(k,m+1)\frac{1}{t_{e2}}=p(k,m)\lambda_1・・・・・・(9)

式(9)に式(5)を用いて

  • p(k,m+1)\frac{\lambda_1}{u_2}=p(k,m)\lambda_1

よって

  • p(k,m+1)=p(k,m)u_2・・・・・・(10)

これも上と同様に考えて、利用率u_2に等しいM/M/1待ち行列における状態mの発生確率をp\left{M/M/1,u_2\right}(m)で表すと

  • p(k,m)=c_2p\left{M/M/1,u_2\right}(m)p(k,0)・・・・・・(11)

になることが分かります。ただし、c_2も規格化定数です。式(11)から

  • p(0,m)=c_2p\left{M/M/1,u_2\right}(m)p(0,0)・・・・・・(12)

式(8)に式(12)を代入して

  • p(k,m)=c_1c_2p\left{M/M/2,u_1\right}(k)p\left{M/M/1,u_2\right}(m)p(0,0)・・・・・・(13)

よって、M/M/2→M/1待ち行列においても積形式解が存在することが明らかになりました。
さらに規格化定数を求めておきます。

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}\Bigsum_{m=1}^{\infty}p(k,m)=1・・・・・・(14)

でなければならないので、式(14)に式(13)を代入して

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}\Bigsum_{m=1}^{\infty}c_1c_2p\left{M/M/2,u_1\right}(k)p\left{M/M/1,u_2\right}(m)p(0,0)=1
  • c_1c_2p(0,0)\Bigsum_{k=1}^{\infty}p\left{M/M/2,u_1\right}(k)\Bigsum_{m=1}^{\infty}p\left{M/M/1,u_2\right}(m)=1・・・・・・(15)

ところが

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}p\left{M/M/2,u_1\right}(k)=1・・・・・・(16)
  • \Bigsum_{m=1}^{\infty}p\left{M/M/1,u_2\right}(m)=1・・・・・・(17)

なので、式(16)(17)を式(15)に代入して

  • c_1c_2p(0,0)=1・・・・・・(18)

よって式(18)を式(13)に代入して

  • p(k,m)=p\left{M/M/2,u_1\right}(k)p\left{M/M/1,u_2\right}(m)・・・・・・(18)

このようにこの待ち行列ネットワークの場合、個々のステーションを独立に考えた時の状態確率の積が全体の状態確率になります。