地上の夢 キリスト教帝国(カール大帝の<ヨーロッパ>)

地上の夢キリスト教帝国―カール大帝のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

地上の夢キリスト教帝国―カール大帝のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

ローマ帝国は真に偉大でした。そのため、それが滅んだ後、その栄光の記憶は古文書や碑文、建築物、さまざまな役職の名前、いや、言語そのものの中に残っていたのでした。西ローマ帝国が滅んだのは476年、それが800年にカールによって再興されたのでした。これがのちの神聖ローマ帝国です・・・・・。というのは、多分に歴史をゆがめたイデオロギー的な見方ですが、このような考え方がどうもヨーロッパの一部の時代の一部の人々には共有されていたようです。
西ローマ帝国(名目上の)復活、神聖ローマ帝国(名目上の)発端、の様子を知りたくてこの本を買いました。実際にはローマ帝国の復活といっても、かつてのローマ帝国が持っていたような緻密な政府機構も軍隊もコミュニティーもなくなっていました。ローマ街道も整備されずに荒れてしまっていました。だいたいこの帝国には首都がありません。フランク王国が800年に昇格して出来たこの「帝国」は、カールの血統的・個人的・軍事的なカリスマによって何とかひとつにまとまっているだけで、必要に応じて王があちこちに移動すれば、そこが首都なのでした。つまり、名前と実際がひどく乖離しているのです。そしてなまじその名前が過去の栄光を引きずっているがために、その後の神聖ローマ帝国はいつも理念と現実のギャップに苦しめられ続けたのだと私は思っています。この本は(私にとっては)そのギャップの発端になった一連の歴史を詳しく述べた本です。


私の意見ばかり述べたので著者の構想を少し紹介します。

 わたしの考えでは、皇帝戴冠は、ローマ教皇をシンボルとなす西方(ラテン的)キリスト教世界−−カトリック世界と言い換えてもよいが−−を政治的にも統合し、キリスト教にもとづく新たな社会を構築しようと考えたカール大帝シャルルマーニュ)と側近たちが思い描いた夢の到達点であった。・・・・・カールが育て上げた国家は、<キリスト教帝国>に他ならなかったのではないだろうか。そして、その国家の誕生は、<ヨーロッパ>の誕生を意味するといえないだろうか。

つまりカトリック世界の誕生ということに著者は重点をおいています。


目次は次のとおりです。

プロローグ
第1章 カロリング家の王権
第2章 キリスト教社会拡大への果てしない戦い
第3章 ラテン語で結ばれる知のネットワーク
第4章 「旅の王権」と「首都」アーヘン
第5章 西方キリスト教世界の指導者
第6章 皇帝戴冠:<ヨーロッパ>誕生
第7章 神の国の建設
エピローグ